東京湾沖でナッチャンWorldに乗る

今回もほぼすべてのPhotoがクリックで大きくなります

これが今回の航海の乗船券。主催の会社は3社ほどあって、私は近ツリを選んだのだが、入金確認後乗船券を発送するので……というので、火曜に電話したらその日が実質的に締切と言われ、慌てて住所を告げて申し込んだのである。
すでにエグゼクティブは満席となっており(もともと座っている暇などないのでエコノミーで結構なのだが)、エコノミー1人6000円*1を振り込んだら、土曜の朝にツアー要領を書いた紙と乗船券が送られてきた。しかしこの乗船券、津軽海峡フェリーのイルカの絵が透かしに入った、正規のチケットとなっており、こんなイレギュラーなイベントに正規券が…とびっくり。改札の入鋏も、ごらんのようにイルカのシルエットのパンチとなっており、これはこれで貴重な思い出の品ではあった。


本日のクルーズは久里浜を起点に午前と午後の2回実施される。私が立てた撮影プランは、横須賀港は午後になるほど光線状態は良くなるので、午前の回に乗って午後の入港を撮ろうというもの。どうせ早朝に現地に着かねばならないのだから、おまけで(光線はもちろん良くないが)朝に横浜から回航されてくるのも狙おう、とすると、外撮り2回に加えてクルーズを楽しむことができると、ナッチャン三昧の一日となる。
横浜港の出港予定時刻は0600、そんなに早いのか、とりあえずアテで入れてあるだけではないかと思ったが、午前の回は1030出港である。準備や乗船の時間を考えると遅くとも0830頃には着岸していなくてはならず、いかに40ノットの高速船といえど浦賀水道航路は12ノットしか出せないことを考えれば、それほど不自然な時間でもない。
昨年の横浜出港は撮れなかったので(↑のように観音崎で撮ったので)、狙えるものならそれでもいいのだが、朝の6時ではまだ薄暗いし、その後の乗船を考えると、なるべく久里浜に近いところにいたい。というわけで、5時起きで迷わず数週間前にロケハンをしておいたポイントへ……


巨大船情報に出るほどの大女であるナッチャンが、事前にアナウンスされていた浦賀水道航路北口入航時刻は0735(当初0720で出ていたが、前日になって15分遅く変更になった)、東京湾フェリーで空母を撮る会でおなじみの北口入航時刻プラス20分の法則では、フェリー航路(久里浜沖)に8時前くらいには到達する計算である。観音崎に遮られ奥側の見通しがきかない山の上で待つこと30分ほど、8時過ぎにナッチャンは姿を現した。
航路外を突っ切ってゆく大島航路のジェットフォイル、セブンアイランドとは異なり実直に浦賀水道航路を12ノットで南航してくるナッチャンだが、港の北東でセブンアイランドと同じように航路を逸れ、久里浜港に入港……と思いきや、ここで行き足はどんどん遅くなり、ついには停まってしまった。港内は狭いし定期ダイヤ優先だから、0820で出港する東京湾フェリー第3便を港外で待避するようだ。


これが昨年、去って行くナッチャンを観音崎で見送った最後の姿。水先人を降ろすため、久里浜沖で停止したのだが、なぜか船首を思いっきり南西に振って、その時すでに久里浜に入港するつもりか!?と慌てたものだ。しかも、時間が良くないと迷った挙げ句フェリーをやめて観音崎に来たのに、この写真で見るように極めていい位置で東京湾フェリーとかぶり、判断ミス(でもないんだけど)に頭を抱えた痛恨の1枚。今回も観音崎で見ていたら、このような船位になっていたことだろう。


フェリーをやり過ごし、やっと動き出したところ。いずれにしても逆光であるが、今回も意外に横がちで撮れる機会は少なかったので、貴重なアングルではある。動き出してしまえば後は早く……


狭い港内に入ってくる。すでに岸壁にはスタッフとは思えない人がチラホラ…しかし、この写真ほど、世の中の善と悪、というのだろうか、相克を象徴しているものはないのだろうか。後ろに見える施設……「塀の中」という奴なんですよw こんなに鮮明な写真を載せていいのかどうか、というのもあるが、塀の中に入っている人も、誰もが昔はナッチャンに描かれているような絵をイノセントな心で描けた(はず)のだ。中からこの見慣れない珍妙なフネを見ることができたかどうかは知らないが、ナッチャンが今一度、その子供の頃の清らかな心を呼び覚ますきっかけになれば、と願わずにはいられない。と同時に、フネオタの犯罪者がここに収容されたら天国なのか地獄なのかというwwww私がム所にぶち込まれる時は、ここにして欲しいようなここだけはやめて欲しいような……


0850接岸完了。まあ普段悠長なことやってられないフェリーだからタグなんかで押したり引いたりしてもらわなくても動けるんだが、それにしても初入港の狭い港で、見事な操船であった。東京湾フェリーは0900久里浜着のくりはま丸による第3便が間もなく着岸するところ。0系と500系位、はたまたセイバーとラプターか、チャールズ F.アダムス級辺りとインディペンデンス級(そのままやんけ!w)位違う造形の2隻の見せるコントラストよ。しかし、「東京湾フェリーで空母を撮る会」を主宰し、日頃趣味のホームベースとして東京湾フェリーにお世話になっている身で、はたまた自他共に認める?ナッチャンフリークの私としては、この両者がよもやこうして顔を揃えることがあるとは……なんか、妄想が都合良くそのまま現実になり、しばし感慨深く見つめてしまった。どうなんこれ、なんか両親が長期海外出張で家に一人暮らしとなった主人公の家に、見知らぬ美少女が転がり込んできて共同生活…みたいな妄想っぷりですよ、私にとっちゃ。


久里浜港全景。ナッチャンが着岸したのは2007年9月まで当港―大分間に就航していたシャトルハイウェイラインが使用していた、260mの長さを持つ久里浜1・2号岸壁。ナッチャンが着岸するには充分な容量である。ちなみに、この写真で左の方、岸壁が切れている奥の砂浜に面したところに、ペリー提督上陸記念碑がある。

朝のウオームアップを終え、下に降りてきた。そのまま車で久里浜1・2号岸壁に向かう。すでに乗船開始間近、青森や苫小牧で車で乗船する時のように、「1便乗船」と書いた紙を手渡され、ダッシュボードに置くと、船尾近くの乗船客用駐車場に誘導される。

普段岸壁は立ち入れないし、今回も乗船客以外は入れないのかと思っていたが、「見学者用駐車場」と書かれた看板もあり、今日一日は自由に入れるようだ。山の上からでは影になってわからなかったが、着岸時横須賀市長?も出迎えての入港記念セレモニーもあったらしい。岸壁では自由に動けず、追い立てられるようにして乗らなければならないのかと思っていたが、軍艦じゃないんだからそんなわけないよな、撮影タイムもたっぷり確保できて、まずは朝からいい調子だ。


なんて撮影に夢中になっていたら、すでに出港5分前!! 例によって重い機材を担ぎ慌てて乗船口に走り、ひと汗かいたところで、午後乗船組らしき人々が岸壁で手を振る中、1040出港。見慣れた久里浜港、火力発電所の煙突も、雪で覆われたデッキ越しに見ると非日常……しかも、すでにこの辺りで充分速い! 新幹線で、東京を発車して、当人(?)流しているつもりでも、在来線の電車が一生懸命走っているのをス〜ッと抜いて行く、あの感じだ。


そして、ほどなくしてナッチャンの真骨頂、高速航行が始まった! 事前情報ではあまり速力を上げないのではないかと聞かされており、6000円の大枚を払う意義が…と心配したのだが、代金払い込みで送付されてきたパンフレット(といっても紙1枚だが)には「36ノットの高速航行」と謳われており、期待してきたのである。豪快にしぶきを上げるウエーキは、営業運行中に陸奥湾で引き波が海岸近くの砂を巻き上げ、漁業に支障するとクレームがついてしまった(それも運行中止の遠因のひとつである)残念な経緯の原因でもあるが、そんなに広がって行ってるかなあ? あと、高速船だけに後部のみに設けられた露天展望デッキは、さぞや強風が吹き付ける―ひょっとしたら沖に出たら立入禁止になるのかな?―のだろうと思っていたが*2、予想に反してほぼ無風の状態で、まったく寒さも感じず快適だったのは意外であった。護衛艦で旗甲板にいたら、三戦速で息もできないような強風に襲われるもんな…速力の基準表は最微速・400rpmで11kt、微速・430rpmで13kt、半速・450rpmで15kt、全速・500rpmで16kt(以上ここまで港内での速力)、航海速力は900rpmで40ktとなる。
しかし、この両側に広がる陸地が、津軽下北半島ではなく、房総・三浦半島というのが、何ともシュールですな。右端に見えるちょっと高い山が鋸山である。


レンズを替えたり、日記の更新などに忙しく、景色に目をやる時間がなかなか取れないという、現代人にありがちな本末転倒の時間を過ごす中、なにやらアナウンスがあり、気がついたら体が妙に遠心力で振られる……それは、33ノットという高速力での180度ターンであった。え!?もう帰るの? なんだよまだ時間半分経ってないじゃん、あ〜もっと遠くまで行って欲しかった……沖に大島を見ながら帰路に就く。
ちなみに公試時の旋回性能は、右旋回で発令から180度(つまり対向)まで1分22秒、360度まで2分33秒、船体が90度の角度を取るまでの距離(アドバンス)は309m、最大旋回圏688m、左旋回では発令から180度まで1分19秒、360度まで2分25秒、アドバンス277m、最大旋回圏661m(いずれも舵角30度)となっている。左旋回の方が時間も短く小回りなのはなぜなのかは不明。


出港時に「潜水艦が南航していった」との目撃証言があり、その通りほどなくして前方東側に浮上航行するおやしお型の艦影を発見。もちろん潜水艦などナッチャンの敵ではなく(?)あっという間にブッちぎったが、向こうはなんだと思ったろうか。もちろん、津軽海峡をしょっちゅう行き来している潜水艦のクルーがナッチャンを知らぬはずはないが、今回のイベントまではご存知かどうかはわからない。

「右舷後方より客船1隻接近中、ノベンバー目標と呼称する。ノベンバー目標、的針的速187度、36ノット、同航」「何ィ!?36ノット!? そんな速力で航行する奴がいるか、ノベンバー目標船名知らせ」「ノベンバー目標、……ナッチャン…ワールド。ナッチャンWorldです!」「なななな、なぜナッチャンがこんなところに!?ちょっと上がってくる」「艦長上がられます、気を付け!」

というようなやりとりが繰り広げられていたかどうははわからないが、さっき抜いていったのがすぐに向こうから突進してきたのだからこれまた驚いたろう。写真は帰路すれ違った際の撮影で、今度は当船が東側で反航して行く。多数の船舶が輻輳する東京湾南口で35ノットはなかなかワッチに気を遣うものだろう。現在の船舶はAISを搭載しているので電子海図を見ていれば動きはつかめるが、そんなものをつけていない漁船やプレジャーボートがうようよしているのだ。一つ間違ってひっかけてしまえば大変なことになる。まさかこんなイベントで水路通報を出すほどではないだろうが(実際出ていなかったが)、久里浜の岸壁には海保のジャンパーを着た職員がいたので、監視・アドバイス要員として乗船していたのかもしれない。帰路には遠く大島から上ってきたセブンアイランドと併走する瞬間もあった。その様はまるで観艦式の受閲部隊第9群位?w ジェットフォイルとウエーブピアサーで編成された高速船隊のよう……


客室内では、青森から来てくれた青森ねぶた実行委員会の方々によるねぶたの実演も催された。「ラッセラーラッセラー!」のかけ声が船内中に響く……いいねえいいねえ、全身で青森を感じることができるねえ。ただの体験航海ではない、旅心をくすぐる粋なプログラムがいくつも用意されている。


1210、1時間40分の行程をあっという間に終えて、久里浜に戻ってきた。
さて午後の回は、当初朝と同じ山の上にまた登ろうと思っていたのだが、いくら光線が良くなると言っても同じアングルを2度撮るのは芸がないし、朝の入港とさっき自分が乗った回の入港で、かならずフェリーを待避するということがわかった。午後の回の入港は1510、金谷1420発の9便に乗れば、久里浜入港は1500なので、また10分前に入港で続行で入ってくることになる。ナッチャンの入出港時刻も、もちろんフェリーと干渉しないように計算されたものだろう。先程入港した時も、入港予定時刻の30分ほど前には久里浜沖に着いて、後はフェリーを待ちながら続行でダラダラ入って来たのだ。これは絶対に沖で狙える!
されそうすると、金谷発9便に乗るためには久里浜1315発の8便に乗って返す必要がある。マージンは1時間ほど、同行の方とどこに行くかを協議して、散り散りになるかと思いきや、朝から行動を共にした方1名がやはりフェリーで……というので、急いでフェリーターミナルへ。いつものように往複遊覧券を買って、最後の迎撃戦へと出港!


往路、続行で出ていったナッチャンを船窓に見ながら、しばし休憩タイム。しかし、何度見てもその光景は非日常だ。東京湾フェリーの船窓からナッチャンが往くのが見える……そうして金谷まで来るとさすがに姿を見失うも、1420定時出港すると、南の海上に小さな、ちょっと通常の船舶とは思えない点が見えた。
その特徴的な船影は見る見るうちに大きくなって行き、はっきりナッチャンだとわかるようになる。どうだろう、いつもの空母撮りの時と比べて、いい感じにぶつけられるペース配分だろうか……もちろん、ナッチャンがどんなに速くても、最終的にはこのフェリーを待って後ろにつくのは100%確実だが、連れの人に絶対大丈夫だから、と断言して乗せた手前、外したらA級戦犯の謗りは免れない。


しかし、鉄板の勝負だけあって、読み通り完全にフェリーの後ろについて続行体制。すでに盛大なウエーキこそ曳いていないが、素晴らしい! あの、一文無しになりながら青森港の防波堤で撮影した、正面がちの鋭い刃物のようなナッチャンの表情が、目の前にある。心配した光線状態も、却ってエッジが際だつ半逆光になった。これだぜこれだぜ、俺が撮りたかったのは! フェリー大正解だ〜!


フェリーからナッチャンを見る分遣隊長。2年前の青森には連れて行けなかったが、昨年、そして今年は土日とナッチャンを見ることができた。とにかく一日3度という撮り放題の得難い機会で、しかも青森で果たせなかった乗船という体験ができ、2年半の月日を経てナッチャン追撃戦ここに完結……と相成るわけである。


乗船時に頂いた、今回のまるっとクルーズ乗客用デザートボックス。青森の洋菓子店のケーキ2個とりんごジュースが入っていた。もちろん、乗っている間、撮っている間中は食べるどころか開ける暇もなく、家にそのまま持ち帰ってきたのである。何もかもオール青森づくしの、本当に素晴らしい航海、素晴らしい一日だった。
ナッチャンは同日夜、久里浜を出港し、予定通り入渠のため和歌山県由良に向かったとのことである。原油価格が落ち着いたとはいえ、経済情勢もあり相変わらず宙ぶらりんになってしまっているナッチャン姉妹の身の振り方であるが、今回の首都圏での公開、そしてクルーズが青函航路へのPRになり、再登板への道につながれば……悲劇の姉妹に幸あれと、ケーキを噛みしめたのであった。

*1:料金は当初エグゼクティブ9000円、エコノミー8000円とアナウンスされたが、さすがに高過ぎると思ったのだろう、発売直前にそれぞれ8000円・6000円へと値下げされていた

*2:Reraの運行開始当初は立入禁止だったらしい