大事件

Blueforce2008-06-08

昨日は遠出したので、本日はバランスを取るべく近場の段歩。
近場といえば、我が家では当然お台場なわけである。ただ、いつもと違い本日はちょっと神保町辺りに用事があるので、1300ちょっと前に自宅を出発、日曜恒例のナッチャンはナッチャンでもReraでもWorldでもない奈津子を見ながら(いや、走行中は見てないっすよ見てないっすよ!)靖国通りを走っていた。
すぐ後ろに、黒の307CCがついている。珍しいなあ、と思いながら駿河台下の交差点まで来たが、何やら前方の空にヘリがうようよと。
火事だな、と思った。消防庁のドーファンが出ている。警視庁のEC155B1らしき機体も出ているが、それは別に珍しい事態ではないだろう。ま、ボヤだろうな・・・
ちょっとさっき、カーナビのVICSが「靖国通り 小川町―須田町間 渋滞0.5km」と出していたのが気になった。多分その辺でハシゴ車やらなんやらが出ているんだろうが、それにしてもヘリの機数が・・・報道のヘリも加えて尋常でない数になった。その数警察・消防で4機、報道で3機(どちらも推定)。いくらなんでも、ボヤでこれだけの騒ぎはないだろ。
すでに用事のある場所を遠く過ぎ、車は須田町、JKCのある交差点にやって来たが、靖国通りには渋滞らしきものは見当たらなかった。上空のヘリはいよいよ近く、同心円を描いて回っている。あの円の中心が現場だ。今ハンディのレシーバーは車に載っているが、消防無線の周波数なんて全然知らないし(だいたい今聞けるのあれ?)・・・それならば、行ってみるまで。ボヤならそこそこのヌルい写真でも、新聞に送ればいくらかにでもなるかもしれないし、最近いろんな所で使ってもらって小銭を稼いでるのでw・・・

ヘリが描く同心円の中心は、ここだった。
消防車はたくさんいるけれども、どうも火事にしては煙が見えず水を撒いた形跡も見当たらない。私は、(後からわかった)事件現場の交差点の西側から東に向かってアプローチしている。「何か」があるのは、交差点を越えて駅のガードがある手前、新しく建ったビルの前辺りのように見えた。
交差点の、テープが張って規制線が設けられている最前列まで行ってみたが、まだその時点では人々はテープをくぐって相互に行き来ができる(警官に止められない)ような状況だった。この時点で、私はまだ何が起こったのかを理解していない。消防のヘリやら珍しい警察車両があるので、ごつさんにメールを送ったのだが、そこで返信を見て初めて事態を知ったのである。今のご時世、地球の裏側にいてもニュースは伝わるから、現場にいるよりもよっぽど遠くのネットワークが充実している場所の方が状況を正確に把握しているはずだ。その後、規制線を越えての交通はまったく遮断されてしまい、用事のある人も電動車椅子に乗ったお爺さんも問答無用で追い返されるようになった。

しかし、考えてみると背筋の寒くなる話・・・今そんな通り魔事件が起こったからといって、ここが安全な場所であるという保証はない。よく、不祥事を起こした直後の企業の製品が一番安全だとか言われるが、そういう事案とは性格が違うのだ。この状況を見て興奮した便乗犯が現れるかもしれない。ちょっと背中にス〜と寒い空気が流れる。規制線をはさんで向こう側にいたフ○○デーの人から、「現場に居合わせたらお話聞かせてもらえませんか」と聞かれるも、私はその瞬間には居合わせていないので断るが、その後も各テレビ局に何度か聞かれた。隣の奴は、別に居合わせたわけでもないのにひとしきり喋って、「お顔写していいですか?」と聞かれ「いやいや、ちょっと顔出るとまずいんで・・・」と言っていた。まあ場所柄そういうのも多いのだろう。その後こいつはテレビのスタッフに乱暴に押しのけられたとか言って警官がうようよいる前で大声でわめき散らして規制線の向こう側にいるテレビのスタッフに食ってかかるという騒ぎを起こしたが・・・ま、テレビ屋さんのマナーの悪さというのも確かにあるんだが・・・

すでに現着は遅いので、修羅場のような雰囲気はなくなっていたが、消防の車がスピーカーで「救護で血液が付着した方、洗浄をしますので申し出て下さい!」と何度も怒鳴るのが、やはりただならぬ緊迫感を感じさせる。目の前には、地下鉄サリン事件で出動したことで知られる移動救護所、スーパーアンビュランスも出ている。そう、惨事の規模でいえばあの事件と肩を並べるほどの・・・あの時、私は有楽町線で出勤の途上であったが、有楽町で降りた時、「ただいま丸の内線は車内でガソリンが撒かれたため、運転を休止しております」というアナウンスを覚えている。あれも、尊師とかいうインチキ野郎が有楽町線にも撒いたろか、と思ったのだったら、私の人生も13年前に終わっていたかもしれない。

上空を旋回していた、朝日新聞のMD900(902)「はやどり」(JA02AP)

その後、鑑識による現場検証(検証は鑑識がやるものじゃないんだっけ?)が始まり、あちこちに数字やアルファベットの表示を置いての撮影が開始された。鑑識の持つカメラはすべてニコン、それも後部にモニタがないので銀塩のようだ。昨今は感染症対策もあるので、マスクもつけての重装備だ。最後はステレオ写真を撮るというので、ワンボックスが西側のずっと後ろに下がって、前方に停まっている関係車両もすべて退かせて撮影にかかる。先程まで路肩にかなりの痛車が停まっていたのだが(中学生位の集団が「○○だ〜!」と大騒ぎしていたが、さすがに私もネタはなんだかもうわかりません・・・)、いつの間にか立ち退いたようだ。

奥に見えるトラックが、犯人が借りて乗ってきたと報道されている車である。
その後、分遣隊長の散歩もあるし、下北にフードを買いに行かなければいけないし、いつまでもいるわけにもいかないので、現場を後にしたが、お台場に着いてみればそんな惨事があったとは夢にも思えない平和な日曜日の風景があった。それはまるで、軽い眩暈を覚えるほどの対比だった・・・なぜか今回の事件、番組が特別編成に切り替わるわけでもなし、携帯のヘッドラインニュースもいつまでも事件のことに触れないし、さっき見たのは幻だったのだろうか・・・誰彼かまわずつかまえて訊いてみたい衝動に駆られたが、実際お台場に集う人々の多分7割方は知らなかったのだろう。

オープンで走りながら考える。
現代社会に生きる者は、自分の利害に直結する事柄だけでも膨大なのに、その他巷間にあふれるニュースや情報などすべてを覚えたり思いを馳せたりすることは不可能に近く、どんなに残虐な事件が起こってもひと月も経つと忘れてしまうのは、飽きっぽい現代人と謗るよりも、むしろ自分の人生(時間)を守るためと理解すべきだろう。佐世保のライフル乱射事件はすでに遠い過去となり、荒川沖の通り魔も記憶が薄れつつある。猟奇事件だって、会津若松だっけ?母親の頭部をボストンバッグに入れて警察に出頭してきた高校生・・・全部が消費されるニュースに過ぎない。

だけれども。1kmも離れてしまえば何ごともなかったかのような表情で、次の瞬間に迫っているかもしれない危機から目をそらして暮らす我々に、明日はなにが待ちかまえているのだろうか。明日起こった事件も、32日後には忘れる、そんなことをあと何回繰り返したら、少しは世の中が良くなるような妙案がみつかるのだろうか。願わくば、そういう大量殺人通り魔に遭うときは、分遣隊長連れでないことを。
亡くなられた方のご冥福をお祈り致しします。