カレーの王子様や![後編]

Kurai Chicken

↓承前
その頃にはすっかりカレーの魅力に取り憑かれていたので、大変残念に思ったのだが、ある時誰かが「ラージプート駅の向こう側に移ったぞ!」というので、行ってみたら雑居ビルの2階で再開していた。それから2〜3年、バイト仲間と遠い仕事場からわざわざ馬場までやって来て、週2回位通う日々が続いた。食べるのは決まってクライチキン。辛さは確か8段階位で、いつも4とか、時として6辺りまで挑戦したこともあった。
店の女主人とも顔なじみとなって、行くたびに挨拶されるようになったが、オーダーや水を注いでくれる合間に話したところでは、学生時代にインドやパキスタンを放浪しており、パキスタンで向こうの人と知り合って結婚したこと(そう、ここはパキスタン料理店だったのだ!インドとパキスタンがどう違うのかも知らないガキがそのことに気がつくのは結構後のことである)、子供は今厨房で調理している旦那との子だということ・・・まだ、世の中も自分も国際化が進んでいない時代のこととて、「へえ〜すごい人もいるもんだね〜」と驚かされたのであった。
その後学校を出てしまうと、近所は近所なのだが足が向くことも少なくなり、10年程まったく訪れることはなかった。4年ほど前、馬場で学校に通っていた同居人にカレーのうまい店があるからと連れて行かれたが、久しぶりだわ〜懐かしいなあとの期待に反して、連れて行かれたのはまったく別の店・・・すっかり時代は変わっており、エスニック料理など珍しくもなんともなくなっていたので、馬場にはカレー屋が林立していたのである。
クライチキンとは違い、汁気が多くバター感の強いカレーを一度食べてしまうと、実はこちらの方が好みに合っていたのか、別の店ながらまた馬場カレー通いが始まった。ラージプートは車で前を通るのみで、気にはなっていたのだが、なかなか入るチャンスもない。そして、珍しく同居人と別行動となった休日のある日、1人でランチに入ってみた。
若干時間も遅かったのだが、店内は閑散としており、当たり前だがスタッフも見覚えのない人ばかりだ。ここの他にも何店舗か出して盛業中のようで、女主人も息子の姿も見えない(それも当たり前だ!息子ももう20歳近くになっているはず)。何よりもびっくりしたのはランチがバイキングになっていたことだ。自分で電子ジャーからサフランライスをよそって、カレーを盛って食べたが、ん?昔の感動が甦らない・・・
カレーもナンも、遅い時間の作りおきなので仕方がないのだろうが、10年の時を超えて侘びしく1人でカレーをすする男の背中に、哀愁とはまた違ったものが漂っていたのは間違いない。夕食食って見ねばよ!とは思うのだが、何かその時の寂しい店内の印象が残って、それ以来また足を運んでいない。西新宿の「白龍」も中野の「青葉」も、店がブレイクすれば店主は厨房から姿を消して行く。今は社長夫人として経営に専念されているのだろうか、息子はどんな青年になったであろうか・・・店の人に聞けば教えてくれるとは思うが、ちょっと怖いような気もする。
初代の店舗が立ち退いたとき、当時すでに倒壊寸前であったボロアパートはすぐにでも取り壊されるのかと思ったが、時期を逸したか、なんとつい最近まで立入禁止のロープが張られたまま残っていた。

・・・実は本日、Ptohoの素材がないので、取材と称して食いに行ってしまいましたとさ。多分12年ぶり位にクライチキン1,400円也を食ったのだが、昔と変わらぬ味で旨かった。ナンも焼きたてでふっくらして申し分ない。ただ・・・夕食時なのに客は私だけ、食っている最中誰も入ってこなかったのが気がかり。
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