アルプスの覇王、Re6/6

SBB-CFF-FFS Re6/6 type 11600

もう10年以上昔になる。1994年、初めて行ったヨーロッパで、どうしても行きたかった所がある。「氷河急行」で有名なフルカ・オーバーアルプ鉄道と、ゴッタルド峠である。
その昔、厨房どころか消防の時に、鉄道ファン誌で読んだオーバーアルプ越えの旅行記、まだ海外などアンドロメダと同じ位遠い所で、当然興味もなかったのが、なぜかその記事にだけは夢中になって、子供心に「この場所に行ってみたい!」と、いつ実現するのかわからねど決心した。ずいぶん遅くなってしまったが、成人してからいい加減経って、やっとヨーロッパに羽ばたくことができたのだ。
朝ミラノを発ち、ティラノからレーティッシェ鉄道の旅を楽しみ、クール泊、翌日FOに乗車し、オーバーアルプ峠の下りが、そしてアンデルマットのホームから見上げた峠を降りてくる列車がファン誌の旅行記とまったく同じだったのに感動し、「悪魔の橋」を通ってゲッシェネンに降りてきた。
機関車、それもマンモス機や峠の補機が好きな私が、やはり昔から大事に所蔵し、時折読み返すのがファン誌No.182号、EF66・EH10特集。その中で、外国のマンモス電機についての記事を久保敏氏が書かれているが、世界最強電機として紹介されているAe8/14・11852に猛烈に惹かれた。その美しいスタイル、火災事故を起こしたエピソード・・・すべてがミステリアスで、ルツェルン交通博物館に静態保存されていることを知って、これまた何としても行かなければ・・・と、ゴッタルドを降りてきたのだ。そして、彼女に出会った。
Re6/6。現在SBB最大の、いやヨーロッパでも最強(現在はスウェーデンのIORE形)の7,900kWという出力を誇る、山岳線用6軸機である。ヨーロッパでは極めて珍しい6軸、しかもBo+Bo+Boの軸配置を持ち、シンプロン越え、ゴッタルド越え、ローカルからEC、果ては貨物まで縦横無尽に活躍する主力機だ。姉妹機のRe4/4II形とは顔や電気機器が共通で、列車に応じて4軸+6軸の運転を行うという、板谷峠のEF71+ED78に非常に生い立ちや性格が似ており、そんな所も日本のファンには親しみを感じさせるはずのだが・・・
しかし、その形態は、日本の鉄道にしか興味のない人間にはあまりに理解不能。湘南スタイルの2枚窓は、とても強力機とは思えないほど柔和で、迫力に乏しい。今の京急のように、一頃すべての形式を同じ顔で揃えたのも、没個性と捉えられてしまったかもしれない。確かに私も最初はそう思っていた。ゴッタルドと言えば、11852であり、クロコダイルであり、当時最新鋭の460形であった。しかし、静態保存のクロコダイルを撮るべく訪れたエルストフェルトの機関区で、改めてRe6/6を見た時・・・
そのマッスが、メカニズムが、圧倒的な力で私に迫ってきたのだ。7,900kWの出力を持ちながら、路面電車と共通の小さなマスコン、ヨーロッパの軍艦にも通じる重厚な機械室、巨体とアンバランスなスポークのタイヤ・・・なにより、横に回れば、Re4/4に比べ圧倒的に長い車体。まさに、「幼い顔して体はオ・ト・ナ」なのだ。
翌年ヨーロッパを再訪した時も、自然の美しさと魅力的な機関車群が忘れられず、迷わずゴッタルドを訪れた。もちろん目につくのはすっかり主力の座を獲得した460形なのだが、Re6/6もその座を追われたわけではなく、460形に伍してEC牽引にも大活躍。ヴァッセンのお立ち台で、私はこれまた、ファン誌No.215の峠の機関車特集に掲載された、またまた久保氏の記事と16年ぶりの邂逅を果たしていた。もの心ついた時からEF63が好きだった。EF66も、EF500も好きだった。そんなマンモス機、峠の補機好きの私が、やっと会えたのが、アルプスのシェルパ、いや覇王、Re6/6なのである。
Photoはレッチェベルク峠を往く、11646"Bussigny"。