LCACビーチング訓練を見る

Hwooko & LCAC & JDS Shimokita

本日は静岡県沼津、今沢海岸にて実施される海上自衛隊輸送艦「しもきた」LST4002と搭載の上陸用艇LCAC(Landing Craft Air Cushion―エルキャックと読む)による上陸訓練を現地取材してきた。
同地にてたびたび開催される訓練だが、実施時刻は朝0800頃からとのことで、自宅を0500頃出発することにし、同行のLCAC好きの某女史の車で東名を西へ向かう。もちろんふうこも同行、一昨日朝霧高原まで行ったばかりなのに、1日おきでまた静岡である。我ながらよく遊ぶね・・・
しかし、行程は下道を走ったりして遊んだりせず、沼津インターまで直行し、現地今沢海岸へ。防風林?と高い防潮堤に遮られて海岸の様子はまったく窺えないが、アタリをつけて路地を入り、防潮堤の上の道路にのぼったところ、沖には「しもきた」の姿が見え、下の海岸沿いには海自の隊員らしきグループと、バス・トラックが。

「しもきた」は先日呉で3隻が並ぶ豪華な共演を見た、大形の輸送艦おおすみ」型の2番艦で2002年3月就役、呉の第1輸送隊に所属している。すでに「しもきた」は艦尾のランプを半開にし、また後部のバラストタンクに注水して艦尾を下げている。2隻のLCACを収容している後部艦内のウエル・デッキには水が満たされ、いつでもLCACが出撃できる体勢。

0915、まず最初のLCACが艦尾から滑り出た。続いて2隻目も離艦、我々のいる海岸を目指して航走してくる。

LCACは本隊の2003年観艦式レポでも紹介しているが、アメリカ、ベル・テクストロン社製のホバークラフト上陸用舟艇で、最高速力45ノット(公称)の高速力で上陸作戦に革命をもたらした新兵器。1984年よりアメリカ海軍で91隻が製造され(2006年現在の在籍数は74隻)、海自でも「おおすみ」型の建造に合わせて計6隻(1艦あたり2隻搭載)が調達された。満載排水量約170〜180t、全長24.7m、全幅13.1m。

海岸を目指して一直線に突っ込んでくる2104号艇。導入当初はLCACは各搭載艦の備品扱いとなっており、艦籍が与えられず番号も「LA-○」というナンバーで表記されていたが、2004年8月に晴れて艦籍が与えられ独立した艦艇として昇格、ハルナンバーは2100番代が与えられ、同時に所属は第1輸送隊隷下の第1エアクッション艇隊に変更となった。2番艦「しもきた」搭載の2隻は2103・2104号艇。なお、海自のLCACはすべてベル・テクストロン社で製造されたので、艦籍を得た後は、国産ばかりの海自艦艇群のなかにあって唯一外国で製造された艦艇となる。黒い下唇のようにパンパンに張っているのが、エアクッションに空気が満たされ浮上航行している状態を示す。上陸してエンジンを絞るとこのクッションはしぼみ、「2104」の艦番号が書かれているランプのドアを前方に倒して車両・人員が降りてくるようになっている。なお、LCAC輸送艦の艦内ウエルドックで縦に2隻を並べて収容するため、貨物を前方収容の艇をスルーして後方の艇に出し入れする関係上ランプは全通式となっている。

ビーチングする2103号艇。通常の船である従来型の上陸用舟艇と違い、ホバークラフトであるLCACはそのまま海岸に上がってくることが可能。ただし、クッションから吹き出される高圧の空気があらゆる砂や小石、ゴミを巻き上げ、数十メートル離れた我々の所まで飛んでくる。見守るのは今回の訓練の支援を行う八戸基地の機動施設隊の隊員達。

上陸してエンジンを絞ったLCAC2隻を横から見る。空気が入らないとエアクッションのゴムスカートがしぼんでいるのがわかる。

LCACの右舷前部にある指令制御モジュールと呼ばれるコクピット構造物。2階構造となっており、1階には7名分の座席、2階にコクピットがある。コクピットに座るのは操縦を担当するクラフトマスター、エンジニア、ナビゲータの3名。海水の飛沫を常に浴びる部分にあって、ワイパーは見るからにゴツイものが各窓ついており、せわしなく動いている。後方に見える煙突のようなものはファンの排気口で、口は360度回転し、これによりLCACには真横に動いたりその場で回転したりする機動が可能となっている。

尾部にある2基の大形推進用ファンはシュラウドつき、直径3.6mの木製プロぺラ。前進時の基本的な機動はプロペラの後ろにある4枚のラダーによって行う。プロぺラは前方の日章旗が描かれている箱状の部分に収められているアブコ・ライカミングTF40Bガスタービンエンジンよりシャフトを経て駆動される。エンジンは4,000馬力の計4基で、浮上と推進用に各2基ずつ割り当てられている。まだ「LA-04」の表記が残っている板の部分が後部ランプドア。

くるりと向きを変えて離岸する2104号艇。轟音とともに再び小石とゴミがつぶてのように飛んできて、今度はさらに海水の霧が加わる。あっという間に服もカメラも塩(「潮」ではありません!)まみれでベトベトに。

今回の訓練はクルーの操縦慣熟訓練のようで、作戦訓練なら搭載して積み卸しを行う高機動車メガクルーザー)や軽装甲機動車陸自隊員などの人員は一切なし、沖で見守る母艦を前に手前で引き返して戻ってきて、砂浜に上陸しては離岸する運動をひたすら繰り返す。おかげでシャッターチャンスは無限にあり、LCACをじっくり撮影したい方にとってはうってつけのイベントである(広報行事ではないのでなかなか事前に予定を知ることは難しいが)。

もちろん、今回もふうこ分遣隊長は艦船イベント用コスチュームを着用してモデルに大活躍だが、今回は一帯で訓練を見守っていた機動施設隊の面々にいつにも増しての大人気! 皆に囲まれて抱っこされたり携帯で写真撮られたり、異常なほどのモテようで、ふうこも構われるたび尻尾をちぎれんばかりに振り大喜び・・・昼休みをはさんで交替したクラフトマスターの方にも熱い視線を浴びていたようである。新たな自衛隊のアイドル誕生か!?

地上誘導員によるハンドリングでエンジン出力を変えるLCAC。訓練を行う海岸は上陸訓練用として防衛庁が所有する用地のようで、用地境界標に「防衛庁」との表記があったが、そのせいか、ここのみ砂浜が大きく段差になっており、見学者が立ち入れるギリギリの線である防潮堤のたもとからでは砂浜に乗り上げた時は上3分の1くらいしか見えなくなってしまう。エンジンを絞るといよいよコクピットが辛うじて見える程度になってしまうが、浮上時と静止時では全高に1mの差があるということで、エンジン出力を上げると見る見るうちに浮き上がり、艇体の半分くらいまでが姿を現すのに驚かされる。

予定では夕方近くまでみっちりやる予定だったらしい今回の訓練だが、昼過ぎから天候が崩れるとのことで、1300過ぎに早々に切り上げ、撤収となった。交替したクラフトマスターや全クルーを乗せ、「しもきた」に向かって帰還!1330過ぎには2隻とも収容を完了し、「しもきた」は相変わらずディーゼル艦特有の黒煙をモクモク吐き出して、沖に姿を消した。
なお、LCACについては本隊の2003年観艦式コーナー
http://homepage.mac.com/izunton/BlueforceFiles/nreview4.html
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