ゲージ物語外伝 小亀の背中に親亀乗せるような話

Land wasser bridge of RhB

ゲージの話になったついでに、ちょっとした小ネタ、というか割とびっくりなおもしろ乗り物を紹介。
スイス南東部、グラウビュンデン地方一帯に路線網を持つRhB・レーティッシェ鉄道は、実はヨーロッパでは珍しい私鉄王国でもあるスイスにあって、有数の大私鉄。といっても日本の大手民鉄のような大都市圏の通勤輸送を担うような路線ではなく、急峻で特に人口密度も低い南東部の地域輸送を担うローカル線の集合体であるが、だからといって(また例えに出して悪いが)いつも廃止の危機に怯えるどこかの国のローカル私鉄と違い、重要な住民の足として重責を担い、なおかつ有名な「氷河急行」の東側ルートを構成するなど観光路線としての一面も持っている。日本の箱根登山鉄道と姉妹鉄道の縁組みをしていることでも知られ、箱根登山の1000形「ベルニナ号」の名は、イタリア国境のティラノからリゾートとして有名なサンモリッツを結ぶベルニナ線からその名を取ったものである。皆さんもH○S店頭のパンフレットなどで、↑のタイトルPhotoに使った、アルブラ線フィリズール駅の近くに架かる随一の名所、ラントヴァッサー橋の写真を目にしたこともあるだろう。
そんなレーティッシェ鉄道は、急カーブが連続する山間ルートを走る路線だけあって、ヨーロッパでは異例ともいえる1,000mmの軌間を採用している。日本のJR在来線の1,067mmよりちょっとだけ狭い、いわゆる「メーターゲージ」*1と呼ばれるこの軌間により、標準軌である国鉄との乗り入れはできず、車体サイズも国鉄車両に比べると一回り以上小さい。
その国での標準サイズより一回り小さい鉄道というと、日本では「ナローゲージ」と呼ばれる762mm軌間を採用している三岐鉄道北勢線近畿日本鉄道内部・八王子線、もしくは大井川鐵道井川線など、ともすれば可愛らしいおもちゃのような鉄道(失礼!)のような位置づけに分類されてしまいがち。事実、言葉だけを捉えたら、一段低い規格の鉄道というのに間違いはないが、あんたレーティッシェ鉄道をナメたらあきませんぜ!

グランビュンデン州の州都で、スイス国鉄の終着駅でもある交通の要衝、クールで見た貨車。「アルプスの少女ハイジ」の舞台と言われ、「ハイジの里」として訪れる日本人も多いマイエンフェルトもほど近い、静かな山の中の街である(私も2年連続で訪れたことのある思い出深い町)。国鉄路線はレーティッシェ鉄道と役割を分担するように、北東から回り込んでクールで線路が途切れており、山深いグランビュンデン州にはほとんど路線を持たない*2
しかし、何度も述べたように、レーティッシェ鉄道は細々と旅客輸送を営むだけのようなヤワな私鉄ではない。なんと、クールまで来た標準軌の貨車を狭軌の貨車に載せて走ってしまうのだ! これを狭軌もとい狂気と呼ばずしてなんと言う。
もちろん、こんな手間のかかることを何百両もできるわけはない。運用は特に直通運転にメリットがあると判断されたほんの一部なのだが、そのための貨車は、若干わかりにくいがご覧のように超小径車輪に低床の2軸無蓋車、というか日本の貨車の分類でいうと長物車のような形態で、恐らくクレーンで吊り上げて載せるのだろうが、1,000mm軌間の貨車の上に1,435mm軌間の貨車が乗るとは、まさに小亀の背中に親亀乗せて〜状態。連結器も左右1対のバッファを持つ国鉄規格のねじ式連結器に対し、中央に1つだけバッファを持ち、その横に連結器のリンクを備える軽便規格と、完全に背負う側と背負われる側の格が逆転している。しかし、ここまで車輪が小径だと、簡単にポイントで異線進入しちゃいそうなんだけど・・・
ま、世界は広いっつーかね、生物の世界と同様に、鉄道も多様性が活力と繁栄を産むのだとしたら、そろそろ画一化も極まってきた日本の鉄道はね・・・ま、いろいろあるんで、あまり余計なことは言わんけど、こういうもん見ると羨ましいな、とは思いますわね。

*1:タイやミャンマーベトナムなど東南アジアに比較的多い規格

*2:標準軌の線路自体は貨物輸送のため工場がある1駅先のエムスまで三線軌で続いている ちょうど、すでに貨物輸送は廃止されて狭軌の線路は撤去されてしまったが、奥羽本線山形―蔵王間のような関係