自動操舵に関して

Blueforce2008-03-01

え〜、まずどこから手を付けたもんか・・・と、忙しさにかまけて更新できないうちに、一般的な話題としてはすっかり下火になってしまった。まあ、アクセス稼ぎを狙っているわけでもないし、一呼吸落ち着いた位の方がうるさい輩も来ないのでいいかな、と。というわけで、まず、自動操舵について、そんなものを使う奴が信じられないなどという論調が跋扈しているようなので、1限目はここから始めてみたい。
実はこの機能&装置、私もまったくノーマークで、お恥ずかしい話だが、そういえばついてんのかな〜位の認識だったのだ(それでどのツラさげてしたり顔で解説!?)報道で読んだところによると、あたご型から新たに装備が始まったとのことで・・・

再掲になるが、昨年6月4日のエントリで紹介した操舵コンソールの写真を見ると・・・クロ〜ズア〜ップ!

確かに右側の黒窓、「自動操舵・・・」らしき文字が見える。「なみ」は確認していないのだが、「ゆき」はもちろん「あめ」でも、またこんごう型でも取り付けられてないのは確実なので、恐らく報道通り「あたご」から取り付けがが始まったものだろう。
ずっと昔、キャッツアイ(アニメ)で三姉妹が夜中にアメリカの空母に忍び込む話を見たことがあったが、深夜の空母は灯りも消えて寝静まっており、艦橋にも誰もいなかった(爆笑!) 子供心にそれはいくらなんでも違うだろうとテレビに向かって突っ込みまくったので、今でもはっきり覚えている。もっとも、その時の空母は洋上で錨泊?しており、一応全員寝ているのにさすがに航行はさせられないという配慮があったようだwwww
恐らく、夜中も艦橋では皆が起きて操艦を行っているというのが当たり前のように言われるのは、こういう認識の人々が今回の件でどこかで聞きかじった結果の反動とでもいうべきものだろう。それは確かに当たり前だ、あまたの乗り物の中で無人で勝手に動いてくれるものなんて、新交通システム位しか存在しない。しかし、それまで漠然と、いや軍艦がどうやって動いているかなんて考えたこともなかった人なら、「みんなで動かしてるんだろ?だったらなんでわざわざ自動操舵にしてるんだよ!」という反応が自然だし、メーカーに乗せられて付けてしまった、という説明がもっともらしく聞こえることだろう。
しかし、本当に「どうせ起きてんだから使えばいい」のだろうか?
その昔、日本人の労働力は安かった。それはもう半世紀も前の話だが、機械を導入するより、人間にやらせた方が安くつく時代があった。ことに自衛隊ともなれば、いくさをするのに基本はやはり人数、機械に比べれば確実な動作が約束されることもあって、操艦関係で例を挙げれば速力マークだって旗甲板に一人貼りついてつるべを上げ下げしていたのである。
こんなこともあってか、以前から、海自の艦船の乗員数が他国(特に新造艦を自前で造れる一流〜一.五流海軍の)艦艇に比べて多いのは、各方面から指摘されてきた。「むらさめ」型以降、各部省力化が進んで目に見えて減ってきて、水上艦では極端な差はなくなって来たが、ちょっと話は脱線するが特に潜水艦は、原潜は除くとドイツ海軍の212型やスウェーデン海軍のゴトランド級のように25人前後(!)という驚異的な乗員数を実現しているのに対して、いくら排水量で倍近いとはいえ、「おやしお」型では3倍近い70人という数値になっている。「そうりゅう」型でもあまり減っていないようだし・・・
だいたい、艦橋に10〜11人という人数が多過ぎるのだ。外国艦艇の例では、今回の事件で関連国が多く含まれているためにアクセスが多いイギリス・タイプ23級のエントリで紹介しているように、常時詰める人数では3人というものさえある。艦長席すら存在しないのだ。

ニュージーランド海軍フリゲイト テ・マナHNZMS Te Mana F111の操舵コンソール 操舵ハンドルの左隣に自動操舵装置のパネルが見える
これには応急についての考え方など、根本的な「いくさ」の概念の相違という問題もあるので、部外者が簡単にしたり顔で責めるべき問題ではないかも知れないが、しかし諸外国が揃ってできているのに、日本だけがバケツリレーで排水とか角材で筋交い作って浸水防ぐとか言っている時代でもないだろう。艦橋だけで7人も削ることができれば、それは即総乗組員を7人減らせることを意味する。実戦で血で血を洗う闘いになれば、残酷なことを言えば7家族が泣かずに済むのだ。
海上自衛隊の定員は2006(平成18)年度末現在約4万5,000人、外国海軍に比べとりたてて定員が多いわけでもない、それどころか近年は定員を充足することも少なく、ただでさえ長期間陸上を離れる洋上勤務が嫌われる今の時代に、「どうせ人は起きているのだから使え」などとはどの口が言うかという話だ。ならあなた海自入って護衛艦の艦橋務めやってくれるんですか?この21世紀になって8年も経った今の時代に、いつまでも人員集約形の権化のような労務形態を許容しておいていいわけがない。
ならば、3人でどうやって5,000tの軍艦を動かすか? これは艦橋操縦と自動操舵しか方法はない。
当日記で、本当に何度も何度も述べているように、現代の軍艦の趨勢としては艦橋操縦が大多数の勢力を占めるのだが、海自は現在でも頑なに操縦室操縦を固守している。それはいみじくも、昨年6月にあたごの艦橋で乗組員の方と半ば言い合いになったwこともあるテーマだ。
艦橋では速力のコントロールは指示を出すだけ、実際のスロットルの操作は艦内にある操縦室で、という役割分担になっており、指示を伝えるだけの速力通信機操作員が1人必要、という操縦室操縦は、背景には船務・航海科と機関科の縄張りの問題、「あんな奴らに機関のことは任せておけるか」「うるさいこと言うなら全部好きなようにやらせておこう」という意識の産物であるのだが、今一流海軍でこんなことやってるのはいない。操舵コントロールは航空機の操縦桿のような小さなヨークが、スロットルと一緒についており、これを1人で扱う。操舵と速力(しかも指示するだけ)の2人を要する自衛艦とは一日の長どころの話ではない。世界の海軍で、そんな非常識な話は聞いたことがないなどという声を今回の報道のなかで聞いたが、確かに「日本の常識は世界の非常識」という言葉には同意するが、私が主張するのは前記の意見とはまったく逆の意味においてである。

ひとつだけ、誤解して頂きたくないのだが(?)、乗り物好き、かぶりつきストとしては、自衛艦の操艦ほど見ていてエキサイティングなものはない。それは、軍艦などに興味のない同居人にまで、「大勢の人が気持ちと力を一つに合わせて、何かを成し遂げるのを見ているのが楽しい」と言わしめた、共同作業の精華とも言えるべきもので、それこそまるで漁船やボートのように、1人が鼻歌歌いながらステアリングとスロットルを操作する(偏見か!?w)外国艦艇では絶対に味わえないであろう「いくさぶね」の凛々しさ、勇ましさにいつも本当に鳥肌が立つ体験を堪能できるのだが、冷静に考えればやはりあれは合理化と両立できるものではない。従って、悲しいけれど、今回の主張も気楽な趣味者の視点とは相容れるものではない。
だから、このテーマに触れるのは本当は気が重いのだが、あえてお気楽海軍ファンブログから一歩踏み込んだ、生意気なことを書いてみた。今回のことをきっかけに、操縦室操縦をはじめ、速力の刻みなど現代の海軍としてはあまり合理性のないシステムや習慣を、改めていくことは必要なのではないだろうか。すでに19DDでは導入が検討されているのかもしれないが・・・でも、日本人って意外に保守的だからね・・・

スウェーデン海軍の機雷敷設艦カールスクローナHMS Carlskrona M04の操舵コンソール 舵輪の右上にSperry ADG 3000VT自動操舵装置のパネル(赤いデジタル表示の斜めになっているパネル)が見える
省力化と手抜きは同義語ではない。自動操舵の問題は、「11人もいて何やってんだ」という非難と、オートパイロットで漫然と航行という(少々誤解の混じった)事実が混同されて世論が形成されてしまったもので、本来艦橋の人員削減と綿密な周囲の見張りは両立することになんら問題はないのだ。「どうせ10人起きているのだから」という意見は、現代の戦闘艦を語る上でのスタートラインがすでにずれている。人数が多い方が周囲に目が行き届くというのなら、300人全員で寝ずにワッチすればいいじゃんw。我々の国の人口、何人でしたっけ? 12億人いる国と同じようにできないのはわかりますよね。12億人の国とは人件費だって命の値段だって違うんだしw
1億3,000万人でやるんだよ。
4万5,000人でやるんだよ。
テレビで自分だったらそんな機械は使わないとおっしゃったらしい現役の艦長さんがいらっしゃったらしいが、それは・・・下衆の勘ぐりかもしれないが、あたごの艦長が一般大卒というところに非難の遠因があるかも知れない、ということを(炎上覚悟で)申し添えておく。もとより、艦橋操縦も現在でも実施している*1例もあることだし、そのオペレーションの細かなところは各艦―多くは艦長の考え方が色濃く反映される―の個別の主義・判断で異なるのが普通である。しかし、同僚艦長のやり方を口を極めて非難する、それを今回の事件を機会に待ってましたとばかりに外部の(予備知識のあまりない、よって現代日本では容易に自衛隊批判に転化されるおそれのある)人間に吐露するという行為には首を傾げざるを得ない。
もちろん、今回の事件が起こった水域で自動操舵が妥当かというのは、また別の問題である。よって、今後はその使用法について、明確な規定、ガイドラインを制定する必要があるが、今回の一件によって、事実上は使用できない「幻の装置」と化してしまう事態を、非常に憂慮するものである。

*1:入出港時などに限ってなど、全面的にではないが船務・航海科と機関科の合意により導入している艦もある