サンレモでイタリアの電機 E656形に乗るpart2

Blueforce on the cab of type E656 E-

承前
単線区間のため、対向列車が遅れていたのか私の乗った列車は20分ほどもサンレモに停まっていたろうか、その間運転席に座らせてもらったり、乗り物話をしたりして過ごした記憶がある。本務の運転士はそういったマニアではないようで、特に私と乗り物話は交わさなかったが、無愛想というわけでもなく機器の説明をしてくれたり、席を替わって私が運転台に座った写真を撮ってくれたりした。
そうこうするうちに出発。あらら、本当に発車しちゃったよ・・・E656は汎用貨客機で、優等列車の牽引も担当するため最高速度は150km/h(160km/h仕様もあり)だが、単線のローカル線では60km/程度しか出ず、なかなかやかましく、そして振動もあり、これが最初で最後の体験と、機関車の動きを全身の五感で感じ取り記憶に刻みつけたのだった。そして、15分ほどの行程はあっという間に過ぎ、終着ベンティミリアが見えてきたが、ここでまた構内が空いていないのか10分ほど停車。私はいいけど、客車に乗っているお客はイライラしているだろう(さすがラテン、実はこれしきではイライラなどしない)。やってきたのはE633形牽引の貨物列車だった。

なんだかんだで30分ほどかかったろうか、列車はベンティミリアのホームに停車した。ここで考えつく限りの身振り手振りで感謝の意を表現、何度も「グラッチェ、グラッチェ!」を繰り返し、お礼に日本から乗り物雑誌を送るから、と住所を書いてもらい、機留線に引き上げていく機関車を見送った。
ベンティミリアは、フランス・イタリア国境の駅。構内は仕切られてパスポートコントロールもあり、両国間では電源がAC25000V(フランス)、DC3000V(イタリア)と異なるため、機関車はすべて付け替え、ローカル列車は両方向すべてこの駅で折り返しとなる。交直セクションは黒磯などと同じく、地上切替のようで同一ホームにフランスのBB25500(このカマは交直両用だが直流側の電圧は1,500V)とイタリアのE656が入ってくる。私はここを見るたび、なぜか周囲のロケーションは全然似ていないのに奥羽本線の新庄を思い出す。

街は観光地というわけでもなく、繁華街も駅前に小規模なものが広がっているだけなので、帰りの列車の時刻まで駅近くの食堂で一服することにした。夕方近く、店内では常連と思われる爺様達が何人も集まって、大声で何事かを話しあっている。イタリアは西欧の中でも治安が悪く、特に南のナポリ辺りでは命も取られることもあり(さすがマフィアの本場 ローマもテルミニ駅の周辺は結構危険)、結構身構えていたのだが、トリノ五輪でちょっとは知られるようになったが南北格差も相当なもので、コートダジュールの東端のこの辺りでは人々は皆それなりに裕福、置き引きや路上強盗などいやしない。それが証拠に、翌年また訪れたときはテーブルに友人から借りていったF4S(ニコンの最高級一眼レフ)を置きっ放しにして便所に行ったのだが、帰ってきてもそのまま残っていた(良い子の皆さんはこういうことを決してやってはいけません!)

再びサンレモに戻り、夕日が落ちる港の堤防でボーッと過ごす。漁船やヨット、名だたる世界の観光地だけにそれが実に絵になるのだが・・・なぜかちょっとうちの田舎、外房の小さな漁港町を思い出したのは意外だった。日も落ちて、今日は初の運転台添乗記念日、気分もいいし、街のちょっと高級そうな店に入ってパスタのコースを頂いた。店の格はそれほどでもなかったろうが、客はみなオシャレでそれなりにフォーマルな服装をしており、小汚い東洋人のバックパッカーは若干浮いていたが、目の覚めるほど美人のウエイトレス嬢はそんな私にも笑顔で接客してくれた。斜め隣に座っていた、(多分父親ではない)年の離れたオヤジと2人連れの女の娘も可愛かったな〜。
ワインも頂いてもうすっかりいい気分、ここで終わり良ければすべて良しと、早めに駅に戻り充分余裕を持って荷物を受け取り、1時間ほど駅で待ったろうか。こんなリゾート地で列車を利用する客は多くない。すっかり人気の消えた駅で、ベンチに1人、今日の思い出をかみしめ、今日の宿である夜行列車が来るのを待った。やがて、ベンティミリア方から今日ですっかり身近になった(なんといっても初めて乗せてもらった機関車だ)E656のヘッドライトの灯りが見えた。寝て目が覚めれば、明日はローマである。
そして、帰国後、鉄道雑誌からグッズから目一杯に詰めて、ものすごい重さになった封筒を送ってやったが、待てど暮らせど返事は来なかった。イタリアではよく重すぎる郵便物は配達するのが面倒くさくなってポイと捨てられてしまう、という話を聞く。ひょっとしたらその手の話かもしれないが・・・もう実名出しちゃうぞ〜! おい、Aldo Basso!この日記読んでたら至急連絡して来い!もう12年経つけど、あんたの事は忘れてないぜ!
この2日がかりの日記、最初と最後で全然テーマがすり替わってますね。