横須賀基地でシャイローを見る

Foredeck of USS Shiloh CG-67

アメリカ海軍横須賀基地で催された、桜祭りに行って来ました。
例年、この手のイベントは展示艦があるわけでもなく、皆が騒ぐ基地内でのアメリカンな食事やグッズ販売などにも興味はないので、行ったこともなかったのだが、今年はなんと昨年8月に新たに配備となったMD対応のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦、シャイローUSS Shiloh CG-67が公開されるというので、これは行くしかないだろうということで・・・
このイベントは本筋は基地内の桜を愛でながら出店やコンサートなどを楽しむというもので、艦船見学はあくまでオマケ、空母まで公開される本格的なオープンハウスに比べれば来客数も少ないが、1隻しか公開がなければその分客も集中するわけで、開門前に行って並ぶのが定石だが、例によって分遣隊長と朝寝していたおかげで家を出たのが0915、現着は1100近くになっていた。そこから、秘蔵の駐車場に車を入れ・・・
ヴェルニーから海自艦船チェックをしながら歩いて行くと、平成18年度就役艦、すなわち3月に就役したばかりの「せとしお」SS599が、まだセイルにハルナンバーを書き込んだままで接岸していた。隠密を旨とする潜水艦の番号は就役引き渡しの際には記入されているが、その後は速やかに塗りつぶされるのが通例、まあまだ4月1日だからいいのかな・・・そこから、メインゲートを通り過ぎて、最近イベント時のゲートとなっている三笠公園までが長いこと!たっぷり30分近く歩かされて、しかも妙に暑い・・・
911以降の恒例となりつつある手荷物検査の大行列も、1時間も並ばされるかと覚悟したのだが、10分足らずで入ることができ、目指すは三笠公園からは反対側に位置する6号バース。祭り目当ての一般客が右に曲がるT字路を左に曲がり、あまり人の歩いていないニミッツ通りを、小海地区の岸壁を目指す。

桜並木の先に、8号バースに停泊中のキティが見えてきた。間近で見るのは昨年7月の小樽以来となる。彼女がこうして桜を見られるのも、恐らくあと1回、貴重なシーンだろう。左下に見えるテントは甲板部の板を外してメンテナンス中のカタパルトを保護するためのもの。

6号バースに行くには、現在主に空母岸壁として使用されている8号バース横を通らなければならない。停泊中のキティホークは作戦状態から離れて、艦内外にわたって大規模な補修工事中。この工事に当たって本国からリリーフで日本近海にロナルド・レーガンが派遣されたのは先日の日記で既報の通り

元の空母岸壁で、2008年配備予定の原子力空母ジョージ・ワシントンUSS George Washington CVN-73が接岸できるように大規模な工事が行われた12号バースには、オヤ! ロサンゼルス級原子力攻撃潜水艦、ハンプトンUSS Hampton SSN-767が停泊中。基地内ではイベントでなくてはカメラを向けることも許されない原潜、有り難〜くプレゼントとして頂きました。タイコンデロガ級に続いてロサンゼルス級もコンプリートに向けて・・・(絶対無理)
昨年のノーフォーク軍港巡りツアーでも紹介したように、ロサンゼルス級は全62隻が実に20年にわたって建造されただけあって形態の変化も大きく、最末期のグループに属する同艦は、セイルの潜舵を廃止、この写真ではわからないが艦首にトマホークSLCM用のVLS(上記2006年10月14日の日記を参照のこと)を装備する。また耐圧殻の外側にミミズ腫れのように膨らんだ、TASS*1の収容鞘も目立つ。アップにすると吸音タイルの質感も良くわかるのだが・・・そこまでやるとお縄になりそうなのでやめておきます。
ちなみに、前日3月31日までは、この場所からこのような写真は撮れなかった。本来キティの停泊する8号バースと12号バースの間には、浮き桟橋である10号・11号バースがあったのだが(旧帝国海軍の時代よりの歴史ある桟橋であった)、ジョージ・ワシントンの配備による大形化=喫水の深化対策として海底の浚渫を行う必要があり、そのために撤去されてしまったらしい。

ありし日の浮き桟橋。1984年のオープンハウス、公開艦である当時第15駆逐隊の新鋭、スプルーアンス級駆逐艦のオルデンドーフOldendorf DD-972をミッドウェイMidway CV-41のフライトデッキから見たところ。こちらも旧海軍以来のものである大形のクレーンも、すべて近年新しい物に変わってしまった。

キティホークのマストに翻る青地に白い星が1つ描かれた旗はワンスター・海軍准将(下級少将)が現在艦艇に乗艦していることを示すもの。恐らく第5空母打撃群司令、ダグ・マックレーン少将の座乗を示しているものと思われる。この将官旗は当該司令官が乗艦した瞬間に掲げ、下艦した瞬間に下ろさなければならない。ちなみに、本隊の艦船コンテンツおよび当分遣隊で何度となく紹介しているように、海自の将官旗では星が桜になる。

キティホークのマスト中段に装備されたMk23TAS(Target Acquisition System―目標捕捉)アンテナ。キティホーク小樽編でも紹介しているが、先日のレーガン佐世保入港の際見つからないと騒いだので、一応指名手配のつもり。レーガンの艦上どこかにこのアンテナを見つけた方は、ぜひ私にご連絡ください。

フライトデッキ後部には、こちらも最近何度も触れているハンドリング訓練用のトムキャットが置かれていた。
8号バースの角を曲がると、次に見えてくるのが今回シャイローが停泊している6・7号バースとなる。

第7艦隊旗艦、ブルーリッジUSS Blue Ridge LCC-19。言わずと知れた横須賀で、いやこの西大平洋・インド洋一帯で一番エライ船である。指定席は今回の公開艦、シャイローと同じ桟橋の反対側、7号バース。

ブルーリッジのメインマストには中将座乗を示すスリースターの将官旗が掲げられており、第7艦隊司令ダグ・クラウダー中将が現在乗艦していることがわかる。

正面から見たブルーリッジ。両舷に張り出しを持つ空母形の船体が見て取れる。この空母形の上甲板をまっ平らにしたデザイン、揚陸指揮艦として各種通信アンテナを設置し、なおかつ電波障害を少なくするためのもので、揚陸指揮艦という艦種は第二次大戦中より存在したが、転用でなく当初からその目的で建造され、極めて異例な空母類似の外観を採用した結果として、同艦は優れた指揮・通信機能を持つこととなり、揚陸作戦のみならず艦隊旗艦としての役割を担うようになったのである。ちなみに、当艦は同型艦2隻より成るブルーリッジ級のネームシップで、2番艦は先日↓のマネっこ軍事小説の一節に登場するマウント・ホイットニーUSS Mount Whitney LCC-20。こちらは大西洋全域を担当水域とする第2艦隊の旗艦任務に就いている。

21世紀になっても、ネズミからフネを守るのは古典的なネズミ返しだが、さすが旗艦ともなるとそのネズミ返しにもスリースターがつく。

やって来ました今回の目玉、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦、シャイロー。桟橋の入り口で改めて手荷物検査を受け、行列に並ぶこと45分、普段ならこの手の行列は面倒くさくて並ばないのだが、本日はこれ「だけ」が目的なので大人しく並ぶしかない。

やっと乗艦の番が回ってきた。見学は大体20〜30人の人数を区切って乗艦させ、前後に水兵のエスコートがつく方式で、あまり自由にも動き回れず、もちろん上甲板のみなので、大した収穫も望めないが・・・

まず最初に案内されるのは前部甲板、西側艦艇ではタイコンデロガ級で初めて実用化されたVLS―垂直発射システム、Mk41を説明する水兵。この下にはノドンを大気圏外で迎撃できる能力を持った弾道弾迎撃ミサイル、RIM-161・SM(Standard Missile)-3が収納されているのだ。
だが、片言の日本語が交じるもののもちろん大部分は英語で、見学客の恐らく99%は何を言っているのか全然わからないで口をポカンと開けて聴いているのみ。説明には「Tomahawk、SM-2、and SM-3」と言っているので、予想通り通常の航空機迎撃用のSM-2となる中射程形のMRとなるRIM-66H/M、もしくは長射程形のERとなるRIM-156Aとの混載となっているようである。お約束でSM-3の搭載数を聞いてみたが、もちろん教えてくれなかった。

艦尾方向、後方捜索用のSPY-1レーダーとその上に2基設けられたスタンダード終末誘導用のSPG-62イルミネータ。

タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦は後部にヘリ甲板を持ち、最大2機の対潜・多目的ヘリコプター、SH-60B・LAMPS Mk3を搭載できるが(通常は事実上1機搭載)、母港で搭載状態を見ることは珍しい。固定翼機と違って離陸は簡単なので、戦闘機を搭載したまま横須賀に空母が入港するようなあり得ない話ではないが・・・搭載機は第51軽対潜ヘリコプター飛行隊・HSL-51のSH-60B、モデックスTA715(Bu.No164851)。

ヘリ甲板では行列に向けて随時、シャイロー乗組員有志による和太鼓の演奏が行われていた。

これが、MD対応改装で新たに搭載された通信装置?を収容したレドーム。両舷に1基ずつ備え付けられている。

前後に1基ずつ搭載されるMk45Mod2・5インチ54口径砲。シールド両側のアクセスパネルを開けて内部機構を見せていた。ちなみにシールドは堅牢な装甲が施されている・・・かと思いきや、軽量化を図ったためにFRP製。現代の軍艦なんてこんなもんっすよ・・・

艦の中央部、洋上補給用のスライディングパッドアイが設けられている部分。上に伸びるのは後部マスト、その右下にMD用の新設されたアンテナのレドームが見える。

あさりさんからのリクエストに応えて(?)、「金ダライ」OE-82衛星通信アンテナのアップを。

これも地味ながら今回の公開の目玉、後部VLS甲板の前寄りに装備されたMk38Mod2・25ミリ機関砲。ゲリラなどを相手にする非正規戦が想定される戦闘局面として多くなって来た現在では、横綱相撲を取る堂々の巡洋艦でもこのような小火器を装備しなければならなくなった。数の上では比較にならないが、神風攻撃に備え対空機銃をハリネズミのように設置しまくった第二次大戦末期のアメリカ軍艦を彷彿とさせる事態・・・時代は巡る。

Mk38Mod2を後部から見る。

Mk38Mod2の光学・赤外線照準装置。このセンサーで見た映像は艦橋でモニター可能で、それを元に遠隔操作される。

後甲板には前部と同じフル規格のVLSを装備する。

停泊中の艦船に電力を供給するステーションは各バースに備え付けられている。電源は交流60Hz・480Vとのこと。現代の艦船はただでさえ電力を食ううえに、レーダーの出力もハンパではないイージス艦だけあって、これだけの電源ケーブルが艦側に引き通されている。ちなみに、「こんごう」型の発電装置はEF65形3両分位の容量を持つが、タイコンデロガ級はこれと同クラスか若干上回る位なのではと思われる。

普段は基地内で飯を食う趣味のない私であるが、本日は朝にコンビニおにぎりを食っただけで、公開艦も1隻で時間に余裕があることもあり、7号バースのたもとにあるカフェで厚手のピザを頂くことにした。支払いはもちろん日本円も使え、超ボリュームのミックスピザは370円。しかも、なかなか美味かった。目の前には第7艦隊旗艦、その奥にはSM-3搭載イージス艦、右を見れば空母と原潜・・・こんな夢のような景色を見ながらゆっくりと飯が食えるなんて、年に1回あるかないか、フネ屋にとってはこれ以上の幸せがあるだろうか・・・

*1:Towed Arrey Sonar System・曳航段列ソナーシステム