追撃!トーテュガ

Blueforce2007-09-01

9月1日はすでに遠い記憶になり、実際に体験したことのある人も少なくなりつつあるが、関東大震災の起こった日である。
各地でさまざまな防災訓練が催されているのは毎年ニュースなどで報じられている通りであるが、関東一円においてはなにげに強気でこういうのがお好きな知事さんのおかげで、自衛隊やら米軍まで駆り出してのデモンストレーションが繰り広げられる。昨年は千葉県大原海岸で、海自「おおすみ」型輸送艦と搭載のエアクッション揚陸艇LCACを使用した上陸・避難民収容訓練が行われたのだが、都合がつかず見に行くことができなかったので、今年はどこかで実施があるのだろうと若干期待はしていたのだが・・・
晴海埠頭に、なんと佐世保を母港とするアメリカ海軍のドック形揚陸艦、トーテュガUss Tortuga LSD-46が来航しているという。なななな、またなんで!? 最近はめっきり少なくなったとはいえ、それなりにポツポツと国内外の軍艦が来航する晴海だが、米海軍のしかも揚陸艦艇が寄港するのは前代未聞。揚陸指揮艦は何度もあるけど・・・*1 
お恥ずかしい話だが、各情報網とも全然ノーマークで、気がついたら帝都の懐深くに侵攻を許していたwwwという事態に、どうやら来航目的もこの9月1日の防災訓練に合わせたものらしく、当然1日にいわゆる「帰宅難民」(のサクラ)を乗せて海上輸送を行うという・・・やった!1日土曜!
これは当然1日に出港があるわけで、晴海でトーテュガが撮れるという絶好のチャ〜ンス! しかしハテ、わざわざ揚陸艦が出張ってくるデモンストレーションというのは、桟橋に横付けして・・・などというヌルいものではなく(地震で港湾機能が麻痺しているという想定のはずであるから)、これは当然艦内に搭載しているLCACを使用しての砂浜などへのビーチングも行うはずである。しかし、現物をご覧になれば皆さん驚かれると思うが、とにかく強力な推進プロペラとエアクッションは周囲に石つぶてをまき散らし、どこででも簡単にできるものではない。当該水域の漁業権などの問題もあるのだ。
一応、主催は八都県市防災・危機管理対策委員会と目されるから、ビーチング訓練でお馴染みの沼津は関係ないし、だいいち1日で終わらせなければいけない防災訓練には時間がかかり過ぎる。昨年自衛隊で実施した大原海岸も本年は関係なさそうな雰囲気なので、さてどこで?と考え込んでしまった。
一日サイズの距離であれば、東京湾から外に出ることはなかろう。大原までだって4時間ほどはかかるし、「どこかで乗せて」「どこかで降ろす」2段階の手順が必要なのだ。東京湾内でLCACがビーチングできる所・・・ちょっと外に出かかってるけど三浦海岸? 館山? まさかお台場!?
などと考えながら、最近多忙につき前の晩就寝が0400過ぎだった私は、例によって布団が恋しくて分遣隊長と籠城してしまい、家を出たのが0800過ぎ。すでに自分的には、遊びに来たんじゃなし、もういるわけないわな〜という思いに加え、フロントガラスに霧のような雨粒が・・・いるいないにかかわらず、晴海に行っても仕方がないので、虹の橋を目指すことにする。竹芝側アンカレイジの駐車場には入れないで(この時点で戦いは終了・・・いやいや、沖に出ての長い戦いになると予感していた)、虹の橋を上から見れば、当然のごとく晴海の岸壁はもぬけの殻・・・
半ば予想してはいたことなので、ここで今更失望はしないが、ここで家に帰る気も起きず、そのまま京浜島へ抜けることにする。本日の撮影地点として本命にしていたのは東京港第1航路を望むことのできる城南島の海浜公園だが(虹の橋は開門時刻0900なので、どうやっても間に合わないと予想)、ここに立ち寄って見回してみてもそれらしき艦影は見えない。戦いの道はさらに先に続いているようである。
こういう時、本当諦めの悪い私は、当てもないのに(さりとて今家に帰っても仕方がないので)、羽田空港から湾岸に乗って、今回も観音崎まで・・・と覚悟した。しかし、先日のパキスタン艦隊出港の時と違い、東京湾外にストレートで出る可能性は低いので、要所要所で湾内を見渡しながら少しずつ進むことにする。湾岸に乗った時点で海ほたるという選択も少し迷ったのだが、若干リスクが高いと判断し横浜方面へそのまま直進。湾岸からは東京湾がチラチラと見渡せる。一見広い湾内だが、もちろん大形船舶は勝手な所を航行して良いわけはなく、特徴ある艦形は一目で見分けがつくので、横浜周辺にはいないことがわかる。ちきしょう、意外に手前か!?

大黒に立ち寄り、腹が減ってはいくさができぬと朝食の後、tamo太郎さんに泣きを入れたりアドバイスをもらったりしつつ、まず最初のチェックポイント、本牧で高速を降りて横浜港入口にある横浜港シンボルタワーに向かう。とにかく、海面が見渡せる要所要所に立ち寄って観察をしていくしかない。この辺で結構雨も強くなってきて、また例によってオレのやることだから・・・と凹みかけつつ、分遣隊長と展望デッキに来たところ、話し好きな母娘のお母さんが、目の前に泊まっているのが7月27日に利島付近の海域で衝突事故を起こしたコンテナ船、「ワンハイ307」Wan Hai307だと教えてくれた。

コンテナ満載の状態で衝突したワンハイ307は、横浜に回航されて来た時はもちろんコンテナを搭載していたが(何個か海にこぼれ落ちたらしい・・・)、すでにすべて降ろしている。船会社でこういった関係業務に就いているというお母さんが言うには、関係会社はべらぼうな金額の補償金を払う羽目になったとのこと。もちろん、保険は下りるのだろうが、全部をカバーできるのかどうかが聞き漏らした。

左舷後部にL字形に激突されたため、こちら側からだとあまりダメージがないように見えるが、船尾が不自然にめくれるように曲がっているのがおわかりかと思う。しかし、この船よりによって「307」、後部がグジャグジャとは・・・ある不吉かつ不愉快な事案が頭をよぎるではないか(笑・・・えません)

と、ここでレンズ越しに海面をねめつけるように見回していたところ、あれ?エスメラルダ? 明2日に晴海に入港予定のチリ海軍の練習艦、世界でもっとも有名な現役帆船の一つであるエスメラルダがすでにここまで入ってきていた。湾内の錨地で今夜一晩を過ごすのだろう。

こちらは南側の埠頭に停泊中の、統合国際深海掘削計画に使用される地球深部探査船、ちきゅう。121mにも達する巨大な櫓が目を惹く。
そして・・・北側の海面をもう一度眺めたところ・・・

!トーテュガ!?
勝った!まだ手前にいる。而して、この後のご予定は?停まっているのかな?しかし、しばらく眺めていたら、明らかに少しずつ近づいてきている。思わぬ珍船?たちの競演に、母娘と盛り上がりながら、

というわけでワンハイ307とトーテュガのツーショットもものにすることができた。どうでい、トーテュガとワンハイ307とエスメラルダとちきゅうを一度に見た奴は世界に3人だけだぜ!フヒヒヒ
ここで、若干右回頭しているようにも見えたので、このまま横浜に入ればいい感じのショットが・・・と期待したのだが、明らかに通り過ぎるようなアングルになってきて、これは無理だとさらに先への追撃にかかる。どこまで追いかければ捕まるのだろう・・・しかし、本当にパキスタンの時と同じだな、まさ2回も東京湾を軍艦追いかけて走り回るとは思わんかったわ・・・
三渓園から幸浦線に乗り、今回は急ぎなので金沢では降りずにそのまま横横に乗り、本町山中道路経由で横須賀に。普段は金がもったいなくてやらないが、こう一刻を争う事態では仕方がない。16号に出たところでUターン、いつものポイントに着いて撮影機材を一式取りだして駆けつけたとこ・・・

うわ!もう来てる! やはり読みは当たった、何のことはない、横須賀に帰ってきたのである。しかも、これを撮った時はトーテュガでいっぱいっぱいだったので気がつかなかったのだが、なんと後ろに写っているのはワンハイ307! タグに押し引きされてここまでトーテュガの後を追いかけてきたのだ。修理は韓国に回航して行うようなので、恐らくこれが旅立ちだったのだろう。

そしてこちらも嬉しい誤算、なんと私は初見となる、沖泊めの補給艦「ましゅう」AOE425とすれ違うようにして針路270度で入ってきた。

トーテュガは1990年11月就役、1980年代中期より12隻が建造されたウィドビイ・アイランド級ドック形揚陸艦の6番艦で、全長186m、満載排水量1万6,000t。ドック形揚陸艦とは、艦内に上陸用舟艇を収納するウエルドックを持つ揚陸作戦用艦艇で、フラットトップの空母形艦形を持つタラワ級・エセックス級、日本の「おおすみ」型がヘリを使っての支援航空作戦能力を持つのに対して、海上での兵員や物資輸送を重視したタイプ。海自には存在しないが、イギリス海軍アルビオンAlbion級、フランス海軍のフードルFoudre級、オランダ海軍のロッテルダムRotterdam級など世界の主要海軍国が保有する艦種である。なお、ウィドビイ・アイランド級は計画当時同じく実用化に向けて開発が進みつつあったエアクッション形揚陸艇、LCACを搭載することを前提として設計された初の艦艇で、後部船体内部には全長134m、艦全体の全長の7割以上にも及ぶウエルドックを持ち、ここにLCACを4隻*2収容する。もちろん従来の上陸用舟艇も運用可能で、小形の機動揚陸艇、LCM-6型なら21隻が搭載可能。

トーテュガは就役当初は大西洋艦隊に配属され、長らくバージニア州リトルクリーク(ノーフォーク海軍基地に隣接する両用戦艦艇の母港で、ノーフォーク国際空港に離着陸する時によく見える)を母港としていたが、2006年4月前任の同じくウィドビイ・アイランド級3番艦フォート・マクヘンリーUSS Fort McHenry LSD-43に代わって佐世保に配属された、揚陸戦部隊であるCTF76(第76任務部隊)最新の配属艦。横須賀への来航は何度かあり、私もちょうど1年前、2006年8月29日のシャイロー横須賀配備を撮影した際にもバース6に停泊しているのを見たたことがある。

昨年のノーフォークで停泊しているのを見かけた前任艦フォート・マクヘンリー。トーテュガと交代してリトルクリークに帰ったのだが、ノーフォークに停泊していたのはご覧のようにマストの工事などを実施していたためかと思われる。

針路270度から入港のために左回頭を開始。艦橋上部の露天艦橋部には普通の服装をした日本人がいっぱい乗っていたので、これが帰宅難民役の都庁職員?なのだろう。これが仕事とは誠に恐れ入った役得だが、軍艦なんかに興味もなければ、休日出勤で朝早く起こされて(場合によっては泊まり?)こんな所まで勝手に連れてこられてやれやれといった気分だろうwwww(代わってくれ〜!) 見慣れない人には大変バランスの悪い奇っ怪な艦形だと思われるが、これは後部甲板をヘリの降着スペースとしたため。しかし、従来からのドック形揚陸艦に比べ当級は特に上構が大きくなって角張っているのが特徴で、後に建造されたイギリス海軍のベイ級、オランダのロッテルダム級、また同級のスペイン海軍バージョンであるガリシア級も類似の艦形となっており、極限まで艦内スペースの拡大を図ったものと理解できる。

戦闘艦ではないので、Mk38などの機銃類を除いて5インチ砲やミサイルなどの大形兵装は持たないが、もちろん自衛用として個艦防御システムのバルカン・ファランクスCIWSは巨大な艦橋構造物の前後に計2基を装備する・・・が、同艦はさらにRAMが追設されており、前部のランチャーは艦橋の直前真下に見える。
前述のように、完全な空母形の艦形を持つ艦には及ばないものの、上陸用物資の迅速な展開にはヘリ輸送は欠かせず、フラットな後甲板上にはヘリスポット2カ所を持ち、数機を搭載・運用することができる(格納庫などの恒久的な搭載設備は持たない)。前述のように当艦はLCACを4隻収容できるが、今回の防災訓練ではこの内蔵LCACを使用し、大地震で港湾機能が破壊された既存の桟橋を使用せず、砂浜に強行!?上陸したLCACで帰宅難民の海上輸送を行うというメニューをこなしたと思われるのだが・・・結局どこでやったんでしょう・・・*3

撮り始めて20分ほどでバース6に着岸。先日のサマーフェスタで体験航海を行う「はたかぜ」と「しらゆき」のために指定席を明け渡して沖合やら船越に疎開していた海洋観測艦群が居並ぶ海自吉倉桟橋Y4バース越しに、回頭を終えて出船で入って行く。
やれやれ・・・無事に撮れました。ここで本日の作戦終了。分遣隊長も新しいフネを見ることができて、またマニアチワワ度に磨きをかけたところで、帰路に就く。さすがドック形揚陸艦ともなると注目度も小さいのか、土曜日にもかかわらず撮影ポイントのギャラリーも私を入れて3人(+1匹)という少なさで、所詮艦船ファンなんてこんなもんか、と思わせる閑散ぶりであった。ま、先週の"コネチカット・ショック"の時には私も全然気がつかず素通りであったのだが・・・

*1:ブルーリッジ USS Blueridge LCC-19 言わずと知れた第7艦隊旗艦のことです

*2:後期建造艦であるハーパーズ・フェリーUSS Harpers Ferry LSD-49以降の4隻は貨物搭載能力を増大させたCV―カーゴ・バリアント、もしくはハーパーズ・フェリー級として独立して分類する場合もある―となっており、LCACの搭載数は2隻となる

*3:後に判明しましたが、葛西臨海公園だそうです これはまったくノーマークだった・・・悔しい〜!