ハチクロゆかりの貨車トキ25000形


ハチクロといえば、不肖Blueforceとしてはやはりこの車両に触れておかなければなるまい。多分この貨車とハチクロがどこで結びつくのかを知る人は世界中に私しかいないだろう。ハチクロの読者で貨車にそれなりの造詣がある人が(あるいはその逆 まあどちらも結果は同じだが)いるとは思えないからねwwwwww
作品ではしばしば今でも母親が住む竹本クンの実家の街が登場する。帰省した彼の目に映る、ホームの前に聳える恐ろしい要塞のようなシルエット。「河が汚れるからと母はイヤがったが 夕暮れになると灯がともる この山を覆う 亜鉛工場が 父とボクは 好きだった」この科白とシルエットを見ただけで(もちろんそれだけでも私はわかるが、事前に高崎を通過する描写があるので誰にでもわかる)ここがどこなのかはわかる。安中である。
安中は、「安中公害訴訟」で知られる、東邦亜鉛の安中精錬所が所在する群馬県企業城下町ともいえる市で、作品に描写されている通り、信越本線安中駅が工場から見下ろす場所に位置している。かつて長野新幹線が開業する前は、末期はほぼ30分ヘッドで走っていた特急「あさま」をはじめ、多数の列車で賑わった信越線高崎口だが、新幹線が開業して後は横川までの短距離列車が行き来するだけのローカル線になってしまった。しかし、今では大幹線を除いてほとんど廃止されてしまった貨物輸送が今でも健在なのが当線の特徴で、しかもこの安中を起終点としている(安中―横川間には当然だが貨物列車は1本も走っていない)。
コンテナ輸送に特化してしまった日本の鉄道貨物輸送にあって、石油輸送を除いて数少ない安泰な分野が濃硫酸などの危険物輸送。トラック輸送に転換した事例もボツボツ出ているが*1、市街地が輸送ルートに入っているような場合は安全性の問題から道路輸送の許可が下りず、タンク貨車による輸送が今も行われている。
上記の貨車は、濃硫酸ではないが、海外から輸入して福島県小名浜港に陸揚げされた亜鉛精鉱(原材料)を安中の工場まで輸送する無蓋車、(新)トキ25000形。トキ25000形は国鉄時代には一般的な鋼製無蓋車であったが、国鉄末期に進んだコンテナ化・一般車扱貨物の大幅削減により、民営化・JR貨物発足後にはほとんど見られなくなった。もちろん、当地の亜鉛輸送も、濃硫酸と違って危険物ではないのでトラック転換も検討されたのだろうが、後述するように濃硫酸貨車輸送がどのみち廃止できないので、こちらも鉄道輸送で継続しても損にはならないだろうと判断されたか、JR化後としては超異例!の新製が行われた。国鉄分割民営化後において無蓋車の新製はわずか12両、それがすべてこの東邦亜鉛所有の私有貨車、トキ25000形なのである。ちなみに、形式名こそトキ25000を踏襲しているものの、車体もプレス鋼を使用した旧態依然としたものではなく、形式名と車番の別にして両方をハイフンで結ぶ表記や、何より110km/h走行が可能なピギーバック貨車、クム1000形より転用されたFT1形台車が異様な外観を引き立たせており、この台車とタキ1000形と共通のブレーキシステムにより最高速度はなんと95km/hというスーパー無蓋車である(従って、国鉄時代の旧トキ25000形と区別する意味で「新」トキ25000形と便宜上呼称される)。私がハチクロで連想するのは、柏水堂とこのトキ25000がワンツー。

亜鉛の精錬の課程では副産物として濃硫酸が発生するが、これはこれでいろいろと工業用の原料になるので、安中から処理工場に向けて運び出さなければならない。というわけで、こちらは先程述べた廃止できない方の濃硫酸輸送を担うタンク車群。まず紹介するのは35t積濃硫酸タンク車、タキ4000形タキ34042。伊藤忠商事の私有貨車で、常備駅は宮下。この宮下という駅、普通の時刻表を探しても出てこない。それもそのはず、福島臨海鉄道の貨物駅で、亜鉛精鉱と入れ替わりに濃硫酸小名浜まで輸送するための貨車ということがわかる。

こちらはタキ4000を大型化して40t積としたタキ5750形のタキ65754。常備駅は同じく宮下だが、こちらは東邦亜鉛所有となっている。
いかがでしたか、相変わらず・・・というより、いつにも増して最初のお題とは全然関係ないこじつけ企画になってしまいましたが、ドラマ版ハチクロ、楽しみにしております。安中ロケはあるのかな?その時にはスタッフの皆さん、ひと目で視聴者に「安中」ということがわかるトキ25000形を小道具として活用して頂けますよう、よろしくお願いします。えっ!?そんなの誰もわからないって?wwwww
さて、今回のエントリにつけたPhoto、貨車は説明した通りだが、その他もハチクロに縁、というかちょっとひっかけたものをセレクトしてあります。全部由来を当てることができたら、あなたは相当のハチクロ&雑学博士です。

*1:濃硫酸輸送が全部トラック転換で命運を断たれて、神岡鉄道はつぶれましたorz