KDX-2初見参!横須賀に韓国艦隊寄港

Blueforce2006-09-09

9月8日、韓国海軍の駆逐艦、テジョヨンROKS Dae Jo yeong DDH977が横須賀港(吉倉)に寄港した。
ほぼ毎年恒例となっている韓国艦の来日だが、今回も同海軍の海軍大学校卒業生による太平洋一周練習航海の途上寄港したもので、ウラジオストクに続いて2つ目の寄港地となる。例年は晴海に入ることが多いのだが、今回は諸般の事情により横須賀となったもの。
当初は一般公開の予定はなかったのだが、直前になり土日で公開を実施するという情報が入ったので、初見のKDX-2型ということもあり、尻尾振って行って来ました。なお、当初は土曜日だけ出かける予定だったのだが、結局日曜も出かけてしまい、2日連続での取材となったので、写真は両日のものが混在しています。ご了承ください。

吉倉のY1バースに碇泊するテジョヨンと補給艦テチョンROKS Dae Cheong AOE58。さすが虎の子の最新鋭艦、テジョヨンがヴェルニー公園など外の目から見えないようにAOEを外側に泊めやがった。しかも、ここまでたどり着くにはいろいろとありまして・・・公開についても海自本体のサイトをはじめ横須賀地方隊のサイトなどどこにも触れられておらず、まあ気持ちはわかるのだが、なるべくあまりお客さんには来て欲しくないな・・・との意図がありあり。そこを目ざとく調べ上げてしまうのがフネオタの方々なのだが、折しも街を挙げての開国祭で賑わう横須賀にあって、ヴェルニーはいつにも増して閑散としており、1人で来たらとてもゲートに向かう勇気が出ない・・・だって、どこから見てもやってないじゃんこれ! そこを同行者3人のパワーで押して入り口まで行ってみると、ひっそりと手荷物検査を実施しておりました。
といっても、同業者は前後に1人もおらず、ほとんど貸し切りというか、まるで特別扱いで入場したような感じ・・・バースまでの長い道のりには一般人と思しき人間は数人しか歩いていない。とてもイベントとはいえないような日常の風景の中、向こうから何百人もの制服の一群がやってきた。韓国の乗組員、士官候補生のようで皆若い。

バースに着いてみても、このような有様。とてもイベントデーには思えない。俺達今日本当に入って良かったの!?
今回のホストシップは珍しく「なみ」型の「たかなみ」DD110。Y1を2隻に占拠されてしまったためか、「きりしま」DDG174が沖泊めになっていた。

テジョヨンは2002年11月1日起工、2003年11月12日進水、2005年6月30日に就役した、現在韓国海軍最新鋭のミサイル駆逐艦で、もちろん初来日となる。製造は大宇重工業(DSME―Daewoo Shipbuilding and Marine Engineering)。
それまでアメリカ海軍の中古である第2次大戦駆逐艦ギアリング級をはじめとした骨董品や、いかにも沿岸海軍然としたウルサン級フリゲイトなどしかなかった同海軍が、1990年代中期以降建造を開始した新世代戦闘艦、KDX(Korean Destroyer eXperimental)の第2弾、KDX-2、チュンムゴン・イスンシン(忠武公李舜臣)級の3番艦となる。
全長150m、全幅17m、基準排水量4,500t・満載排水量5,500t、主機はCODOG・巡航はMTU製20V956TB92ディーゼル2基(8,000馬力)、ブーストはジェネラル・エレクトリック製LM2500ガスタービン2基(5万8,200馬力)で、最大速力30ノット。LM2500の単機出力は、「こんごう」型などの10万馬力÷4基で2万5,000馬力に比べ、2万9,100馬力と16%ほど大きくなっているが、これは常時使用でないCODOG艦ゆえ連続定格の数値でないためと思われる。まあ馬力表示などなんとでもなるのだが、日本と韓国ではメーカーの出力算出基準となる自然条件がほぼ同じと考えられるので・・・
古代の朝鮮王族の名を冠したKDX-1、クァンケドテワン(広開土大王)級3隻に対し、KDX-2は中世の王や武人の名を冠している。テジョヨン―大祚栄は7〜8世紀の初代渤海王。テチョンはチョンジーChonji級の2番艦で、1995年11月3日起工、1997年1月17日進水、1997年11月30日に就役した。忠清北道大田市郊外にある大清湖から名前を取っている。
なお、KDX-1の3番艦、ヤンマンチュンとチョンジー級の3番艦、ファチョンの晴海寄港を以前本隊でレポートしておりますので、ご覧下さい。
http://homepage.mac.com/izunton/BlueforceFiles/kfleet.html/

KDX-2は1番艦が2003年就役したばかりの最新鋭、佐世保には寄港実績はあるが、他の港にはまだ来訪はなく、もちろん私も見たことはない。韓国新世代戦闘艦の習作ともいえるKDX-1が比較的重厚ながらトラッドなスタイルをしているのに対し、KDX-2はかなりステルス性を意識した上構が印象的で、ひと皮ムケた艦容が新世紀を感じさせる。まあ、それが格好いいかどうかは別だが・・・いずれにしても、今年の来訪艦艇の中でぜひ見ておきたい1隻だったのだ。願わくば入港シーンを撮りたかったのだが、8日は絶対休めない・・・これで我慢!
この角度から見ると、なるほど次世代の駆逐艦。ステルスの定石、外に向かってV字形に折った外板やモノコックのマストなど、隣に並ぶ「たかなみ」の1歩も2歩も先を行っている。まるでヨーロッパの最新艦艇のようだ。ま、それが格好いいかどうかは別だが・・・(2度目のつぶやき)

まったく凹凸のない平面で構成された上構。フランス海軍のラファイエット級フリゲイトにも似ていなくもないが、アメリカ海軍のウィドビイ・アイランド級ドック形揚陸艦にも見えるような・・・風圧側面積は計算の範囲内なのだろうか。

前甲板、一段高くなった所に収められているMk41VLS。8セル×4単位の32セルを装備する。配置レイアウトとセル数は隣に並ぶ海自の「たかなみ」型と同じだが、こちらはスタンダード、SM-2ブロックIIIAを装備する。つまり、分類上はミサイル艦なわけで、それでいて艦種は「DDH」を名乗るという・・・なお、この配置形態を採るのは3番艦である当艦までで、4番艦であるワンゴンWanggun DDH978*1からはMk41が左舷側に寄せられ、右舷側には新たに自国開発によるVLSを装備、ここにやはり自国で開発する(と言い張る)アスロックと同等の性能を持つ対潜ロケットと巡航ミサイルを仕込むらしい。その意気や良し、計画通りなら我が海上自衛隊も真っ青の最強戦闘艦が誕生するはずだ。しかし、ウリナラのことですからねえ・・・(ニヤニヤ)。ま、お手並み拝見。
実は、ここまで来る途中、同行の方に連絡があり、一般公開はなし!とのこと。はぁ?直前で中止かい、なんともドタバタだな〜、それなら桟橋から撮影するだけで10分もあれば終わってしまうではないか・・・とここまで来たところ、ホストの「たかなみ」が公開を実施しており、逆にテジョヨンは桟橋にいる韓国海軍の兵士に「フォト、ノー」と撮影を止められる始末。それならばと「たかなみ」に乗艦し、あちらさんが絶対に文句の付けられない「最強の日本領土」からの撮影を敢行。ま、ここまで見られればいいか、とボヤキながら艦尾に向かい、先日のサマフェスに続きハーバーマスターピアに碇泊するアメさんのミサイル巡洋艦チャンセラーズビルUSS Chancellorsville CG-62と、こちらもつい先日以来のシャイローUSS Shiloh CG-67の並びを撮る。

しかも、またドック形強襲揚陸艦エセックスUSS Essex LHD-2が佐世保から来ており、本日の横須賀港は異常に豪華! いやマジで、こんな濃ゆいメンツが揃っちゃって、一体どっちを見たらいいのかわからない。まさにフネオタ酒池肉林である。だいたい、MD対応でSM-3搭載のための改修作業中のカーティス・ウィルバーUSS Curtis Wilbar DDG-54を含め、視界に入る範囲でキャラの立ったイージス艦が4隻もいるのだ。狭い日本でも、関西や東北、北海道に住んでいればこんな眼福は拝めない。東京というのは、世界でも有数なミリオタ天国なのではなかろうか・・・

ところが、ヘリ甲板でうろうろしていると、どこからともなく「公開もうすぐ始まるらしい」という声が聞こえてきて、しばらく待っているとOKとなった。なんだよ、迷走してるな・・・大体、舷門にはテント、金属探知器まで備えて公開する気満々じゃん!? まあ、今いろいろ難しい時期だからね、いろいろ駆け引きもあるようだし、海自側も困惑している感じがありあり。前はケンチャナヨの国だけありあれだけ何でもありだったのに(ふうこは実はクァンケドテワンに乗ったことがある)、結構時代の空気を感じ取ってしまうY1バースの出来事ではありました。
公開にはなったけれども、撮影は一切禁止とのことで、土曜は最初に乗艦した数名は荷物を一切受付に置いていくように言われたらしい。レセプションのテーブルの周囲にはカメラバッグやら機材一式が置かれている。しかし、もちろんクロークのような機能は想定していないので、番号つきのタグで引き換えたりするわけでなし、正直ウリナラ海軍相手だとこれは怖い・・・悪意はなくても、誰かが間違えて持って行ってしまったらおしまいではないか。預けるのを躊躇していると、我々の番から持って行ってもいいことになった。あんた達、どこまでケンチャナなんでしょう!? ま、いいけど。しかも、岸壁側のテジョヨンは非公開で、ヘリ甲板を渡って沖側のテチョンに早々に追い立てられる。しかも、数人のグループごとに1人、案内(監視)つきの至れり尽くせりぶり。下手なことはできないし、う〜ん、補給艦の上甲板をいくらじっくり見学しても・・・半周してテジョヨンと舷を接する所でしばらく観察、ああだこうだと装備について話をした後、一層下のレベルに降りたら、遠洋航海恒例の韓国物産展をやっていた。こちらはちょっと趣旨が異なるので、また日を改めて紹介します。

翌10日の日曜日はテジョヨンも公開OKとなり、艦内は非公開ながらも、写真でわかる通り同級は上甲板が完全にエンクローズされているので、前後部を行き来するには実質的に艦内通路を通ることになり、思いがけず艦内探検が楽しめた。ウリナラ海軍の皆さん、ありがとう。

というわけで、再び装備紹介に戻ります。最新鋭艦だけに仕上がりも良好な艦内通路を通ってテジョヨンの前甲板にやってきた。ヨーロピアンスタイルの艦容の中で、グッと目を惹くアメリカ製の装備はMk45・5インチ砲。もちろん、現代アメリカ軍艦の代表的な艦砲で、対岸のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦も装備するおなじみのものだが、角張ったステルスシールドが特徴的な最新形、Mod4となっている。もちろん、将来的にはロケット推進の延長射程ロケット砲弾(ERGM―Extended Range Guided Munition)の発射能力も持っている。
このMod4、従来形のMod2が54口径なのに比べ62口径と砲身長が延伸されており、各国の新世代戦闘艦に採用例が増えているのだが、昨年(2005年)名古屋港で見学したニュージーランド海軍のANZAC級フリゲイト、テ・マナHMNZS Te Mana F111が装備していたのもMod4で、本隊の解説で62口径と書いてしまったのだが、その後世○の艦○の読者投稿欄で読んだのだが、どうも砲身長は選ぶことができるようで、テ・マナの場合は54口径仕様のようである(1番艦テ・カハTe Kaha F77は8月4日の日記で紹介しているが従来形のMod2を装備)。

こちらがテ・マナのMod4で、超広角と望遠のパースペクティブのせいもあるが、やはり長さは違うように見える(ちなみに、62口径と54口径の砲身長の差は1,016mm)。

この21世紀に超保守的な自衛艦のスタイルが一目でわかってしまう2隻の並び。特にトラスマストはなあ・・・いや、好き嫌いはまた別の問題なんだけれども・・・大きさは、KDX-2が基準4,500t・満載5,500tなのに対し「たかなみ」型が基準4,650tとほとんど同じ大きさ(自衛艦は満載排水量を公開していない)にもかかわらず、「たかなみ」の方がひと回り大きく見える。もっとも、軍艦は大きければ偉いというものでもないが・・・また、ヨーロピアンスタイルのテジョヨンの備砲がMk45で、基本的にアメリカ一辺倒のはずの海自「たかなみ」の備砲がOTOブレダというのも逆になっていて面白い。軍艦お国柄というわけである。

軍艦のスタイルを決めるのに非常に大きなファクターであるマストだが、これがモノコックになっただけでこんなにもエキゾチーック・コリア〜!この辺はかなり私好みである。

マスト上部に設置された3次元対空捜索レーダーはタレス・ネザーランド(旧シグナール)製、GバンドのMW08で、捜索距離は105kmとのこと。

その下のレーダーアンテナはインド・GECO製、CバンドのSPS-95K航海・水上索敵レーダー。

中段に設置された巨大なお椀は、火器管制レーダーである同じくタレスのSTIR240。これにスタンダード用のイルミネータとしてレイセオン製のOT-134A・CWトランスミッターが組み合わされる。

・・・で、さてこれは何???まるで巨大なドラム洗濯機のような機器がマスト基部の左右に外側に向い取り付けてある。配置からして電子戦装備と思われるが、これが韓国が独自開発したと言われるSLQ-200(V)"SONATA"電子戦システムなのかな? しかし、"SONATA"ってあんた・・・韓流余波ですか?w

上甲板中央部にはMk32・3連装324mm短魚雷を両舷に装備。

CIWSは前部が艦橋の上にRAM21連装ランチャーを、後部にはゴールキーパー30mm機関砲を装備する。

後部を見る。煙突と後部構造物の間に、AGM-84ハープーンの4連装キャニスターが左右舷に1基ずつ装備される(見学時は各々2発ずつ)。後部構造物の2次元対空捜索レーダーはSPS-49(V)5。ここだけ急にアメリカ物に戻られても、なんか違和感。さすがに性能で選べばSPS-49しかないということだろうか。SPS-49の後ろには、ミサイル艦の定石として全周方向に誘導できるように前部と同じSTIR240を後方に向けて設置、その後ろにはゴールキーパー配置している。ゴールキーパーはKDX-1に引き続いての装備であるが、前部がRAMなのに混載とは、本当にまとまりのないフネ・・・

航空武装ウエストランドスーパーリンクスを2機搭載できるが、見学時は搭載していなかったので(AOEも格納庫はなしで搭載せず)、このままで遠洋航海に赴くものと思われる。海自の遠洋航海が必ず1機ずつを搭載しているのと対照的だが、あれはあれで半年間の航海、メンテとか大変そうなので、置いて行く方がいいのかも知れない。しかし、韓国ならヘリといえばSH-60系を搭載しても良さそうなものだが、この辺にもヨーロッパの香りが漂っている。やっぱり安いのだろうか・・・
実際、実績と計画の両面で、韓国海軍の増強ぶりは目を見張るものがある。前述したように、ついこの間まで中堅グリーンウォーターネイビー*2だったのが、KDXシリーズを続々と建造しだして、あっという間に4,000t級の対空ミサイル艦までたどり着いた。しかも、曲がりなりにも自国建造である。そしてこの後のKDX-3では、いよいよイージス艦となるのだ。アメリカ、日本、スペイン、ノルウェーに続く5番目の「イージスクラブ」加入国の誕生である。

ここで韓国の国防政策について詳細に論じるつもりもないし、そもそも私にはそんなことは不可能だが、相も変わらずの日本が造ったからウリナラも、というような子供じみた動機で、造ってみたはいいが全然使いこなせない、という微笑ましい状況を、我々はいつまで笑って見ていられるのだろうか。必要以上に脅威をあおり立てる必要はないが、チ○○公の造ったものだからよ〜と小馬鹿にしていると、いつしか気付かぬうちに大化けしているかもしれない。誰だって最初は見よう見まねで、トンチンカンで無駄な回り道をするはずだ。しかし、それらの失敗もやがて自家薬籠中の物となる。大口叩いているだけかもしれないが、電子戦システムや飛び道具には国産品も目立つ。インテグレートされておらず非効率なように感じる節操ない装備品の数々も、ほとんど忠実にアメリカ製を買わされている海自と比べるとタブーがない感じで羨ましい。艦船ファンにも、海自の人達にも、ほとんど初見参のKDX-2を目の当たりにして思うところがあったはずだ。

*1:2006年現在艤装作業中

*2:海底の浅い海面で海水の色が緑色に見えることから、沿岸での活動が主な海軍のことを指す―ブラウンウォーターネイビーとも言う これの対語となる外洋海軍は「ブルーウォーターネイビー」と言うが、真の意味でのブルーウォーターネイビーは、現在ではアメリカ海軍しか存在しないであろう