護衛艦あたごを見学Part2

Blueforce2007-06-04

新鋭ミサイル護衛艦「あたご」見学記。中盤、艦橋見学編です。

上甲板レベルの艦橋構造物内にあるレセプション?スペース。右側の面には木製のラックと、その上に嵐山の木橋五重塔と後ろに聳える愛宕山の絵が描かれた鏡が架けられている。その奥には「三菱重工業株式會社長崎造船所 平成19年」のプレートと、転属や表彰、改装、目立った活動参加など艦歴を記入して行くプレートがあるが、まだ就役3カ月足らず、現状では「第3護衛隊群 第63護衛隊に編入 平成19年3月15日」の項目だけである。

ラッタルを何度も折り返して、05甲板*1にある艦橋に上がってきました。
艦橋の構成は、おおよそこんごう型と同じで、45度斜めにカットされて配置されているSPY-1Dに合わせて左右舷角が斜めになっているが、充分な広さを取っている。ただし、艦の大きさの比率ほどには「はつゆき」型などに比べて広いとはいえない。デスクには「艦長」と「副長」の文字が入ったテッパチが・・・

操舵コンソールの右には対空レーダーの表示スコープが置かれているが、これは(特に昨今世間をお騒がせしていますが)イージスシステムの能力がわかってしまうインターフェースなので、このような港内での一般公開では電源を切っており、体験航海時でも操作員は暗幕をかぶるようにしてスコープの表示が絶対に乗艦客の目に触れないように配慮している。

前方から見たところ。しかし、前述したようにこんな風に全艦とも艦橋まで公開しているとは夢にも思わず、いつものことであるから余計な持ち物であるストロボと外部バッテリーは車に置いてきてしまった。使えるのはペンタ内蔵の小形ストロボだけ、しかしこれでは10-22mmレンズ使用の場合は画面の下側がケラレてしまうし、第一光量不足。艦橋見せるなら先に言えや〜!とボヤキつつの撮影。

操舵コンソールと速力通信機。配置は1人で両方が扱えるようになっており、ついに1人で操艦が可能になったか!と思ったが、聞いたところ従来通り2人配置にしているとのこと。艦橋全体の配置では10〜11人とのことである。しかし、最新鋭イージス艦でもやはり舵輪にはあの何ともいえない「つる」の滑り止めを巻き付けてるんですね・・・これって造船所でつけてるのか、就役後に海自でつけるのかどっち!?

舵輪の左隣に見えるのが速力を指示するタッチボタンで、両最外側に並ぶオレンジの列が左右両舷の前進(最微速〜一杯・12刻み)、その一つ内側の赤の列が後進(最微速〜一杯・5刻み)、中央の2列が補助の回転指示で、オレンジは増速側の黒(3〜40)、赤が減速側の赤(3〜40)を示す。ボタン類の誤作動を防ぐために透明アクリルのカバーを置くのは良く見られるスタイル。このボタンを押すことで、艦橋で操縦を行う場合は直接速力のコントロールができ、船体内の第2甲板にある操縦室で操縦を行う場合は指示を伝えることができる。
本隊や当分遣隊で何度も解説しているように、諸外国の海軍で艦橋操縦*2が主流になった現在でも自衛艦は操縦室操縦を基本としているが、当艦も艦橋にいた乗員の方に聞いたところ、操縦室操縦が所定であるとのこと。
面白いのはこの時の問答の答えで、「入出港時もですか?」と聞いたところ、「いや、入出港時こそ操縦室操縦です」と言われたこと。自分が乗り物を運転することを考えて頂ければ実感できると思うが、もし車を前方を直接見ながら運転するのではなく、例えば後ろ向きの窓がない場所で助手席に座った人の指示で運転するとしたら? そしてそれで車庫入れや縦列駐車をしろと言われたら? 艦橋操縦のメリットは、入出港時のような細かな指示が目まぐるしく変わる時により生かされると思うし、実際、以前練習艦籍に変更される前の現役時代の「あさぎり」に乗った時は入出港時に艦橋操縦を行っていた(沖に出て操縦室に渡す)。この乗員の方はまた違う考えがあって入出港時には操縦室操縦の方が有利とおっしゃるのだろうが、なかなかこのやりとりには興味深いものがあった。
航海科の乗員でも機関科の乗員でも、自分が乗艦したことのあるタイプ以外の艦についてはまったくご存じないことが多く、キャリアを積んだ上の方の階級の人でも「えっ?ああ、○○型は乗ったことないからわからないですね」ということが多い。操縦の権限については海自においては常に航海・船務科と機関科の綱の縄張り争いの材料で、その時の艦長の考えで決められるらしいが、意外に隣の艦はどうしているのかはわからないらしい。部外の人間の方が、いや部外だからこそ見えてくることもある。
その左隣には速力マークの操作ボタンが見える。「こんごう」型まで(汎用護衛艦では「あさぎり」型まで)は旗甲板で人力により操作していた速力マークは、当型よりこのように艦橋から遠隔操作できるオートマークになった。マークは強速以上では両舷を組み合わせてひとつの指示を表すため、隣の速力指示ボタンと異なり1組しか設けられていない*3。なお、速力マークについて詳しく知りたい人はこちらを参照のこと。

これは2006年の観艦式にあたって川崎・東扇島で一般公開された折に撮影した輸送艦「しもきた」LST4002の艦橋操舵コンソール・速力通信機。速力通信機部分はほぼ同じ(指示ボタンの上、軸ブレーキの切換スイッチがなく、「おおすみ」型特有の装備である離着岸操艦装置のスイッチに置き換わっている)であることがおわかりかと思う。ただし、ディーゼル推進の輸送艦である同艦の速力区分は第2戦速の上が最大戦速〜一杯となる。
しかし、ごたくはともかく、本当にこのタッチボタンの輝きは蠱惑的な光を放つ。見ていると、一度いいから押してみた〜い!と生唾を飲み込んでしまう美しさだ。いいなあ、これでボタン押して「両舷3戦速黒10回転翼角整定!」とか言ってみてえ・・・一度でいいから・・・

こちらは「きりしま」の速力通信機。スロットルレバーを備え、前面パネルは従来スタイルの針式速力区分表示になっている。現在両舷2戦速赤黒なしで航行中、赤黒の表示器の両脇にある黒く細長い小窓が軸回転数表示、その下の同じパネルが可変ピッチプロペラ翼角表示なのは「あたご」と同じ。透明アクリルのカバーにはインカムのマイクとスピーカーがつく。

右舷側、艦長席の左前には電子海図表示器とモニタが2台備わる。モニタとキーボードはほぼ同一のものだが、電子海図をローディングするCD/DVDドライブとフロッピーのスロットは左側だけに設けられている。現在左のモニタは横須賀港内の海図を、右のモニタはレーダー画面を(現在は停止中)表示している。

前面上部から吊されているモニタはついに液晶フラットパネルになった。しかもこれ、国産じゃない?今ひとつメーカーがわからないんだが、ここだけちょっと外国艦っぽい匂いが・・・

こちらは2001年に撮影した「きりしま」のモニタ。もちろんブラウン管で、こちらは逆になんか古臭いな〜。ちなみにこの撮影時、仙台にて実施された体験航海につき写真にはちょっとわかりにくいがアスキーアートで「伊達」「正宗」と、左舷側のモニタには「牛舌」「七夕」と表示されていた。

右舷側窓下に設置されている艦の姿勢、風速・風向表示器。妙にきれいな表示なのだが、明らかに実際の針表示ではないし、マグサイン式?と思ったのだが、良く見たら液晶パネルだった。

海図台は右舷側の後方に設けられた共通の配置だが、一番広さを実感するのがこの周りかな。内側の梁の縁にラッパが、外側にハンディ測距儀が架けられているのも他艦と同様だが、通常後部中央(宇宙戦艦ヤマトだと沖田艦長のいる場所)に艦橋への出入口が設けられているのに対し、イージス艦では両脇に2カ所設けられている。つまり、後方にちょっとした階段スペースがあって、艦橋背面は仕切りとなって両側から回り込んで出入りすることになる。また、写真でトラ縞バーで仕切られている最後部は、後で述べるようにSPY-1Dのレーダーの裏面になる。

海図台の横には液晶のモニタが設置されているが、これも恐らく電子海図を表示するモニタと思われる。

広げられていた海図は#W90「東京湾」。もちろん、当艦の横須賀入港は初めてであるから、この海図も今回が初仕事のはずである。

背後の壁面にある戦闘態勢表示盤。これを見ると、前後部ともにVLSに「SM」と「VLA(後述)」のランプがあり、どちらにも搭載できることや(もちろん、「トマホーク」はありません(^^;))、ファランクスが21番砲・22番砲と20番代で呼ばれていることがわかる。従来のミサイル護衛艦やヘリコプター搭載護衛艦では主砲である5インチ砲を50番代で呼称するが、なぜかこのパネルではそのまんまの「5インチ砲」と表記されており、「51番砲」とはなっていない。

その反対側、右舷寄りには「こんごう」型では見られないフィンスタビライザーの角度表示器(左)と、こちらもヘリ格納庫を持たない「こんごう」型にはないヘリの艦上での取り扱いのための各作業手順確認ランプのパネル(右)が設置されている。動揺を低減するため客船には必須のフィンスタは、軍艦では贅沢装備だが、ヘリを搭載する艦については離着艦時の安全性向上のために取り付けられることが多い。

外に出て、ブリッジウイングで一服してみよう。隣接する「はたかぜ」から「あたご」の艦橋から後ろ、左舷後甲板方を見る。艦橋と第1煙突との間に意外に広いスペースがあるのがわかる。また、第1煙突と第2煙突の間にはお馴染みSSM-1Bの4連装キャニスターが左右に向けて×状に2基設置されるのだが、現状では架台だけでキャニスターは1本も取り付けられていない。

今度は「はたかぜ」の逆サイドから見た「きりしま」の同アングル。煙突の角が丸められているのと、こちらはSSM-1B(ハープーン?)のキャニスターが取り付けられているのがわかる。また、内火艇は下の上甲板との間に直接搭載されている(あたごでは屋根が設けられている)のと、ヘリ格納庫の有無で後部がまったく異なっている。

自艦のウイングから後方を見るとこんな感じ。SPY-1Dのアンテナがすぐ隣にあって、アンテナ面に触ることもできる。「こんごう」型ではこれが1層下にあって、ウイングは真後ろまで回り込んでいる。写真でもちょっと見えるが、細い縦横線が無数に走っているのだが、この格子の一つ一つがフェイズドアレイ・レーダーの素子になるのだろうか。しかし、これだけ近くになると、ウイング部も後ろの方はレーダー作動中は立入禁止にしなければならないのでは?

さすが目線が高いだけあって、ウイングからの眺めは爽快の一言に尽きる。なんたって、すでに隣に並ぶ「はたかぜ」のマスト中段位に上がって来ているのだ。下にはY2で青少年の事前応募者対象一般公開を行っている「たかしお」が見える。しかし、「あたご」という超大物ゲストが来航したにもかかわらず、レギュラーイベントのサマーフェスタなどに比べると閑散としており、まだまだ暑さも本格的でないこともあり、非常に快適なイベントであった。

イヤ〜ン(?)たかしおの潜望鏡がグルグル回ってる〜! きっと発令所では子供達がスコープをぐるぐる回して歓声を上げていることだろう。潜望鏡は子供にはまだ早いんじゃないのか〜?(?)

ウイングからY3に停泊中の「むらさめ」、「あすか」、「たかなみ」、Y4の「うらが」の前甲板を見る。後方に見える緑のネットは横浜ベイスターズの練習球場。オレがベイスターズの選手だったら練習にならんね〜。

汎用護衛艦の2代、OTOメララの76mmコンパクト砲を装備する「むらさめ」(101と書かれている艦)と、ついにDDでありながら格上のDDG・DDHに並ぶ5インチのOTOブレダを装備した「たかなみ」の砲塔の大きさの差がわかる。後方には他用途支援艦「すおう」AMS4302、さらにその後ろには上部を白に塗り分けられた迎賓艇「はしだて」ASY91の姿も見える。

反対側、左舷の「はたかぜ」と「きりしま」を見る。どうですこの高度感!「はたかぜ」はすでに遙か下に見下ろすほどになっている。これは、イージス艦の宿命で、イージスの「目」となるSPY-1レーダーをできるだけ高い位置にマウントして、対空捜索の範囲を広くするための必然なのだが*4、それにしても異様にデカイ。
「はたかぜ」の艦橋上に2基設置されているパラボロイドのアンテナが、スタンダード誘導用のSPG-51イルミネータ。中間誘導にSPY-1を使用して、命中直前の数秒だけ照射すればいいイージスのSPG-62と違い、イルミネータに100%誘導を頼る従来形のシステムでは、イルミネータの数がイコール一度に誘導できるミサイルの数になる。一度に十数発(あるいはそれ以上)が同時誘導可能なイージスが、いかに優れた防空システムかがおわかり頂けよう。

前甲板を見ても、従来形とイージス艦の差は歴然。マガジンからいちいち1発ずつ発射機にセットして、グルグル回して狙い定めて撃つ「はたかぜ」に比べ、サイロがそのまま発射機を兼ねているVLSは装填の時間はゼロ、何発でも同時発射が可能で、作動部は蓋だけで可動部のメンテナンスが大幅に軽減され、発射機の重量分がそっくり浮き、内径のサイズ以内ならトマホーク・アスロックなどの各種ミサイルも収納することができ*5複数の専用発射機を装備する必要がないなど、数々のメリットを持つ。厳密にはイージスとVLS装備は同義ではないが*6、リアクションタイム短縮、多数発同時誘導のメリットを生かすにはVLSが最適の装備となる。

最後に、軍艦といえども欠かせない大事な設備を紹介しよう。他艦では狭くていつも混み合っているトイレだが、本日は閑散としており、ここは資料として撮っておかなければ・・・ということで、じっくりと撮影させて頂く。いや、これだけきれいなら機材も床に置けるし、いいんですよ、台湾で旧形客車のトイレとか撮ってますからね、なかなかね・・・それに、本当ああいう所見られると気まずいんですよ・・・
個室は全4室、一番奥のみウォシュレット装備となっております。

なぜか横一列に並んでいる3区画とは別に、内壁に面して独立して設けられている1室。ここだけ他よりも格段に広く、逆に落ち着かないほどだが、艦長&隊司令用?
さらに、「はたかぜ」とあたごヘリ甲板編に続きます〜

*1:自衛艦の甲板のレベル表記は、上甲板を第1甲板と称し、艦橋構造物の建物でいうところの2階を01甲板、以降上階に行くにつれて02、03……と上がって行く 逆に上甲板レベルより下は第2甲板、第3甲板……と振って行く

*2:この場合の「操縦」とはハンドル―操舵ではなく、アクセル―速力のこと

*3:原速以下は表示が可能なため、下の方では2列にわかれているのがわかる 入港時などその場で回頭する時に左右のスクリューの回転数を変えたり、さらに片側を逆ピッチにして左舷微速前進・右舷最微速後進のような動きを使用することがあるが、15ノット・強速以上でそのような動きを取る必要はない―というか、取ったらどういうことになるかおわかりになると思う―ため、高速側の速力表示には左右舷の区別がないのである

*4:通常の対空ミサイル駆逐艦ならば比較的軽量の回転式レーダー1基をマストの高い位置に装備すれば良いことだが、イージスの場合は巨大で重量もあるSPY-1を、回転しないため全周用に4基装備しなければならず、これほどのものをマストに取り付けるわけにはいかないため、必然的に艦橋構造物の側面に取り付ければ位置も高くなってしまう

*5:現実にはミサイルとのマッチングは結構デリケートな問題で、対潜ロケットであるアスロックRUR-5を垂直発射形―VLAと略される―のRUM-139に発展させるにあたっては、開発がうまく行かずアメリカ海軍は死ぬほど苦労したといわれる ちなみにアスロックとはAnti Submarine ROCketの略 ミサイル全盛の時代になっても無誘導のロケットだったのは、対空兵器ではなく、潜水艦のいる大まかなエリアの水域に投射するので飛翔中は精密な誘導が必要ないためで、着水後はホーミング魚雷、すなわち海のミサイルとなって潜水艦に誘導されて行く VLSでは垂直に打ち上げるので方向性も持たせて投射する従来形の発射機と異なりある程度の空中での誘導・姿勢制御が必要で、これが開発難航の原因だったらしい このため、VLAになってアスロックの制式名はロケットを艦上発射対水中目標用ロケットを表す「RUR」から艦上発射対水中目標用ミサイルの「RUM」に変更されている

*6:世界最初のイージス艦であるタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦は前期建造艦であるネームシップ以下の5隻がVLS実用化以前に就役したため通常の発射機―Mk13の連装版であるMk26を装備していた